空港は誰が動かしているのか

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  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2016年5月1日発売)
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関西国際空港の経営権売却(コンセッション)にかかわった元官僚による本。最初の3章で空港経営の要点、日本の空港や関空が抱えている問題を総説し、後半の3章で関空伊丹経営統合からコンセッションまでを語る。空港や民間「風」経営の問題点にかかわる総説には的確ながらさほど新味はないが、実際のコンセッションまでのプロセスについては、あまり具体的な話は書けない部分もあるだろうが、「中の人」が書いただけにたいへん臨場感のあるエピソードが多い。また空港という単なる民間企業ではない公共的な性格の強い、ある意味特殊な施設の運営は新鮮でもある。むしろ民間の企業経営の性質を違う立場から照らし出しているようにも読める。

羽田の年間利用者は新宿駅の2週間分。ボリュームという意味ではニッチな商売

爆買いブームは一段落したが、中国を中心にアジアからの流入需要は増加するとの筆者の見立て。中間所得者層になると海外旅行に行く余裕が生まれる。2000年台は9.11や新型インフルエンザ、リーマン・ショックなど海外旅行需要には逆風が吹き続けていたので、近年になって反動が来ての爆買いだと。→たしかに。観光産業に力を入れる政策に違和感もあったのだが言われると納得。最近、丸亀ですらほとんどの観光客が中国人だという話を聞いた

関空・伊丹経営統合についての国交省上司からの唯一の指示は「地元の合意をきちんと取り付けろ」

関空会社では外部の民間人を役員に指名してきたが、日本に民間の空港運営会社はないので素人ばかり。素人的な改革案を新しい役員が来る度に謳うことになった

とりあえずコンセッションを前提として高い数値目標を掲げたが、実現できなかった時の対処は政府側と民間側でまったくイメージが違った。政府側は借金完済が大前提なのでコンセッションに失敗してもまたやり直せば良いと、民間側は一度失敗したディールは色眼鏡で見られれてもう無理なので値段を下げてでもコンセッション完遂→ギリギリ爆買いに救われた

運営権の期間は44年とした。国内勢は前例がないとして否定的だったが、海外勢は40年以上でないとやらないとの意見が多数。ローリスク・ローリターンの商売なので期間を長くとらないと割にあわないと。特に低成長の日本では

運営権料収入への延払基準適用とか、土地管理会社との連結納税とか、税制でも工夫をしてもらっている

PFIではレプワラはやらないのか、殿様だなあ

霞が関でも最終的な権限は大臣にあるが、実質的な意思決定は課長補佐レベルで決まることが多い。一方、民間はトップダウンで現場で物事が決まらなくて、現場の人間とトップの関係の見極めが必要と(これはコンセッションという一発超大型案件の性質にもよると思うが)。
矛の民間ーやりたくないことはやらなくて良い、選んだフィールで勝てば良い。だからトップダウンで決めやすい
盾の公共ー担当すべき分野は法律で決められ不作為も責められる。周辺論点すべてに備えなければいけない。実務を取り仕切る現場からのインプットが必要な割合が大きい(トップが往々にして素人というのもあろうが)

ノンリコース・ローンが一般的でない日本のファイナンスも障害に。しかしプロジェクト・ファイナンスでは違うだろうと。



いろんな人がいろんなことを言う現場の雰囲気が伝わっておもしろかったです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 2018年11月5日
読了日 : 2016年9月1日
本棚登録日 : 2018年11月5日

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