えも言われぬ“えぐみ”を感じる。
ドイツ観念論哲学なるものがあるそうだが、この小説は、ドイツ観念論小説という印象であった。
エミイル・ジンクレエル少年10歳頃から、大学生の青年期までの青春期の魂の軌跡と彷徨を描いている。なのだが、多分に観念や思念の要素が濃厚なのであった。
さらには、離れた者の間で、思念の交感がなされたり(あたかもニュータイプ)、そういう能力や価値観を備えた者同志は瞬時に互いを見分けてしまう。言わば超自然主義な展開が頻出する。
そしてカトリックの一元論的な神でなく、悪魔的なダークサイドをも備えた、明暗併せ持つ神を希求するなど異教的な思想も濃厚である。
ところで、終章で第一次大戦が勃発。マックス・デミアンもジンクレエルも戦場に赴く。そしてそれまで否定してきた国家の権威に一部与した印象を与える。それまでの理想主義的なムードが一挙に覆された感じ。この点「魔の山」の終幕を思わせた。
なんとも独特な小説で、腑に落ちない感じが残っている。いつか他の翻訳で再読したい。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
海外文学
- 感想投稿日 : 2021年9月5日
- 読了日 : 2021年9月2日
- 本棚登録日 : 2021年8月23日
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