風に舞いあがるビニールシート

著者 :
  • 文藝春秋 (2006年5月31日発売)
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感想 : 575
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6つの短編小説から成る物語

 ひとつひとつの作品が短編とはいえ 十分な読み応えを感じさせるのは 著者の森さんが持つ深い知識と作品を書くにあたって調べ上げたであろう情報量の多さに他ならない

 6話はどれをとっても面白く読後感が良い

◯『器を探して』の作中に『釣具小鳥将棋碁麻雀』というのが出てくるが こういう発想に感心する

 『一口含んで、泣きたくなった。昔から、あまりにもおいしいものと出会うと、弥生は泣きたくなる。生まれてきてよかった。そうつぶやくと周囲は大袈裟と笑うけれど、「食」とは人類に最も手短な、そして平等な満足と幸福をもたらす賜りものであると信じている。』
    (器を探して の文中より)

 同感!
そうだ そうだ!
『衣食住』というが 『食』は人の体ばかりか心もつくりあげる

◯『だから、私の中にいつもあるのは、自分はこの犬たちの一割を救っているんだって思いじゃなくて、ここにいる九割を見捨ててるんだって思いなの』
   (犬の散歩 の文中より)

 ボランティアをするにあたって してあげているという優越感ではなく これしかできないけど自分のできることはしっかりさせていただくという使命感がある人間がいることが素晴らしい
ボランティアの真髄を問う物語でもある

◯『守護神』では 「伊勢物語」や「徒然草」の解釈や考察が面白すぎだった

◯『鐘の音』は仏像の話が大変興味深かった
私の父は丸太の木から仏を彫り起こす作業を趣味にしているからなおさらだ
仏を彫るも 修繕するも 仏の御魂を移す儀式も 全てが厳かでドラマチックだった 
だからこそ プラモデル用の接着剤や 最後の鐘の音のくだりはクスクスっと笑えて楽しかった

◯『ジェネレーションX』ではオチがあるに違いないと
想像力を駆使して読書を楽しんだが 私の想像力を超える明るいオチが待っていた

◯『風に舞いあがるビニールシート』は 表題作なだけあって 濃厚なメッセージ性をはらんだ物語だった
 
『もう君は聞き飽きたと思うけど、僕はいろんな国の難民キャンプで、ビニールシートみたいに軽々とばされていくものたちを見てきたんだ。人の命も、尊厳も、ささやかな幸福も、ビニールシートみたいに簡単に舞いあがり、もみくしゃになって飛ばされていくところを、さ。』
  (風に舞いあがるビニールシート の文中より)

 『誰かを助けたい』って思いがあっても 自分の身に危険を呈しても行動に移すっていうのは 誰にでもできることじゃないよなって思う
 『助けたい』と思っただけでもすごい
 『それについて知ろうと学ぶこと』…それもすごい
 でも そこに体ごと突っ込むっていうのは 死ぬかも知れないけどそれでもいいって覚悟で 
私はそういう人間を 本当に尊敬する
作中の彼女が最後にそう決断した全ては 最高の愛情を
得たからに違いないと思う

 やはり 『愛情』を受けた人は 強くもなり 優しくもなれるのだと思う


 短編はあまり好き好んで読まないけど 今回この本は出会ってよかった
朝 仕事にいく前の数分間ができた日に ちょっとずつちょっとずつ読み進めるのが楽しかったな

 

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年11月27日
読了日 : 2023年2月27日
本棚登録日 : 2022年11月27日

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