日本人の9割が知らない遺伝の真実 (SB新書)

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  • SBクリエイティブ (2016年12月5日発売)
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遺伝と非共有環境によって人の成長は決まってしまうということが、一番印象に残った。ああ、もう決まっているんだなと思えた。そう考えると、子どもにどんなによい学習環境、運動環境をそろえたとしても、子ども自身の遺伝の影響が大きいのだから、あんまり意味はないという諦めというか、おおらかに考えられるようになった。
中学受験をしているとか、私立にいったというお子さんがいる。そういうお話しを聞くと、我が子も何かした方が良いのかと焦る気持ちがあった。しかし、焦ることはないと思うようになった。

研究は、双子の家庭を追うことによって実践されている。双子だから遺伝子はほぼ同じであり、育った家庭が同じであるため、共有環境は同じになる。そんな双子でも、異なる大学に入学することがある。そして、なんと収入はほとんど同じになったというのだ。偏差値でもなく、習い事でもなく、まさに収入までも遺伝子による影響が大きいのだ。

また、人は年を取るごとに、遺伝の影響が大きく出てくるとわかっているそうだ。収入についても、年を取るごとに遺伝の影響がでてきているとのことだった。つまり、人間は年齢を重ねてさまざまな環境にさらされるうちに、遺伝的な素質が引き出されて、本来の自分自身になっていくようすが行動遺伝学からは示唆されるとのこと。

努力すれば、工夫すれば、誰でもいい大学にいけるようになる。そういう信仰があるけれど、行動遺伝学の研究結果はそれを否定している。それは衝撃だけれど、知れたことはよかった。

エピジェネティクスとは、遺伝子の変化。環境の変化によって引き起こされることがあるから、遺伝子も変化する可能性はある。

大切なのは、子どもの中にある形質を見つけるように努力すること。お金をかけなくてもできることはたくさんあり、親にできるのは本来当たり前のことだけ。

特に子どもに好きでもないことを、これは「やり抜く力」を育てるためだといって強制的にさせることは、危険ですらあるとのこと。

家庭で生活リズムをつけることや、きちんとした食生活を送ることは大事。でも、それ以外のどんな友人に出会うか、どんな先生から何を学ぶかは、親は決められない。基本的なところを重視して、サポートしようと思った。

そのほか、印象に残ったこと。
・才能には遺伝がかかわっていること、収入にも遺伝がかかわっていること、才能に気づき育てるには経験と教育が必要であること、しかしそれはいまの学校教育の中で必ずしもできるわけではないこと、それは知能や学力に遺伝の影響が大きいからだということ、学校は遺伝的な能力の個人差を顕在化させるところだということ、でもこの世の中は学力がすべてではないこと、学力とは異なる遺伝的才能を生かした人たちでこの世界は成り立っていること、才能のないところで努力してもムダだということ。
・世界はしばしば厳しくて理不尽だけれど、案外捨てたものではありません。その理由はたった二行で説明できます。
ひとは幸福になるようにデザインされているわけではないけれど、現実には幸福を感じて生きている人もたくさんいる。それは遺伝的才能を生かす道がこの社会にひそんでいるから。
・環境の影響で一番大きいのは、「いま、ここで」。だから、私は学生たちにも常々、「過去の栄光に溺れるな、いまの不幸を嘆くな」といい聞かせている。
・「学校教育とは売春宿である」。人間には生きる上での三大欲求があると言われます。食欲、性欲、3つ目の欲は「知識欲」だと考えている。学校で感じるのも、知識に対する擬似的なエロスです。
・どんな遺伝子を持って生まれてくるか、そしてどんな環境に出会うかも、すべては「運」なのです。
・個人の努力を超えた問題に関しては、やはり社会保障の仕組みをつくって対応することが不可欠です。例えば、近年世界的に注目されるようになった「ベーシックインカム」のような制度は検討に値する。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年12月19日
読了日 : 2021年12月19日
本棚登録日 : 2021年12月19日

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