([さ]5-1)教科書に載った小説 (ポプラ文庫 日本文学)

著者 :
  • ポプラ社 (2012年10月5日発売)
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感想 : 24
5

中高の国語教科書に選ばれた作品からさらに編者が選した作品集
「教科書に載る」という大人が中高生に読ませたいというものから
「面白い」すなわち「目の前が開ける」ようなを選んだもの
そういう統一主題が明確な上で競作されたかのように同種の作品が並んでいて
短いほどわかりづらい文章の芸といえども出来栄えがよくわかりやすい気がする

『とんかつ』三浦哲郎
あらすじを書きだすと三行で終わりそうなごくごく簡易な話であるだけに
編者のいう「面白さ」が明確に現れた作品
この「面白さ」をこの作品以上の短さで表現するのは困難

『出口入口』永井龍男
昭和は下手なファンタジーより隔絶した遥かに霞む異世界

『絵本』松下竜一
上の『出口入口』同様にいわゆるショートショートとの違い
発想を表現するか小説として完成させるかの意識差を感じる

『ある夜』広津和郎
小説というより随筆のような小説
今度は情景描写との差異に焦点がある

『少年の夏』吉村 昭
「お兄ちゃん、少し貸してやってね」の恐怖
収録作品厨では長めながら
それでも全文を教科書に掲載されるのがわかる無駄のないつくりだが
説明し過ぎに感じるところもあって難しい

『形』菊池 寛
故事成語なお話
成語となって伝わるに足る故事が満たすべき要件を余すところなく捉えている

『良識派』安部公房
上の「形」と比較してみて
「良識派」とか「サイレントマジョリティ」と「故事成語」と
語源と現代用法の違っているものと比べてしまう

『父の列車』吉村 康
口幅ったい言い方するなら「あざとい」作品
この作品だけ挿絵入りなのもあざとい
良し悪しとは別だけれども

『竹生島の老僧、水練のこと』古今著聞集
鎌倉時代の説話集から
これはやや編者の意図するところからすると飛び道具すぎるか
解釈は読む人次第すぎると思うし
いわゆる国語の教科書にふつうの意味で相応しすぎる作品に過ぎる

『蠅』横光利一
短編小説としては収録作品中もっともまっとうなもの
ごくあたりまえに良くできていて
変化球ばかりだった中にあって逆に際立つ

『ベンチ』ハンス・ペーター・リヒター
可憐な小品だがオチを認めるかどうかは難しいところ
そこがなくとも成り立つのではあるが
あるからこそ作品の価値おとしても別の意味あるともいえる

『雛』芥川龍之介
収録中もっとも長い作品
単純な筋書きをひとつひとつ無駄ない場面と各人物の過不足ない描写でつなぐ
技巧の高さに文句のつけようない一品
小説としては『蠅』のほうが上だろうけれど
「文章芸」としては抜けている


総じて
頭に『とんかつ』をもってき山場に『蠅』で締めに『雛』と
編者の構成はさすが
『出口入口』と『絵本』に『形』と『良識派』を並べるのもにくい
その合間に『ある夜』『竹生島~』『ベンチ』を挟むのも納得
個別にみると不満もあるが
一冊としての完成度はまことに高い

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年10月25日
読了日 : 2014年10月19日
本棚登録日 : 2018年10月17日

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