向田理髪店

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  • 光文社 (2016年4月19日発売)
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おもしろい! 北海道の夕張市とおぼしき苫沢町にある向田理髪店を舞台にした苫沢町の物語。連作短編6つ。主人公の向田康彦は53歳で、昭和25年から続く理髪店を28才の時に父から継いで25年。最初の短編は小説宝石2013年4月掲載。設定が同時代とすれば康彦は1960年生まれ。となると床屋を継いだのは1988年・昭和63年で主人公は奥田氏とほぼ同い年の設定か、などと想像する。

苫沢町は炭鉱で栄えたが、廃坑になり人口は減り、一時のハコモノ行政のおかげで図書館や遊園地が閑古鳥が鳴いている。町の助役は総務省から出向してきた若いキャリアで、しかし家族も一緒にきたから本気か、などと実際の現知事などを思い浮かべたりする。

町に残っているのは長男と訳ありUターン。康彦とて広告代理店で限界を知り親父が病で倒れたのをいい口実と戻ったのだ。幼馴染のガソリンスタンド経営の瀬川、電気工事店の谷口、この3人を主軸に、息子のUターン、町おこし、中国人の花嫁、映画のロケ地になった、自慢の息子が詐欺罪で逃亡? など小さな町に小さな事件がぽこぽこと起きる。そんな苫沢の人々を奥田氏は生き生きと動かす。

町おこし講演会でのやりとりがいい。カフェをやりたいFM局をやりたいという息子たちに、親たちは「おれたちはいろいろやったがだめだったんだ」というと子供たちは「おれたちはまだやってねえ。おれたちがやる権利までは奪うなよ、俺たちは苫沢が好きなんだ、おじさんたちには迷惑はかけないから好きにやらせてくれ」といい沈黙が訪れると、「いいぞ、年寄りに負けるな」とヤジが飛び、司会の助役も「ということでよろしいでしょうか」となり、会場に爆笑が・・ 

ドラマにしたらおもしろそう、と思ったら映画化されていた。

初出「小説宝石」
「向田理髪店」 2013.4月号 息子も理髪店を継ぐのに札幌から戻ってきて・・
「祭りのあと」 2013.11月号 隣の馬場さんの爺さんが倒れた。が一人になった婆さんは隣町の病院に見舞いに行くついでに羽をのばして・・
「中国からの花嫁」 2014.7月号 40歳の専業農家の野村が中国に行ってお嫁さんを連れて来たが・・
「小さなスナック」 2015.2月号 42歳の早苗が戻ってきてスナックを開くと男たちは入りびたり・・
「赤い雪」 2015.10月号 苫沢町が映画のロケ地に。しかも主演はアイドル。が出来上がった映画はR15指定。かまくら作りは小中学生も手伝ったのに・・
「逃亡者」 2016.2月号 札幌の進学校から東京の有名私大に進んだ秀平が指名手配?

2016.4.20初版第1刷 図書館

映画「向田理髪店」2022.10.14劇場公開 向田康彦:高橋克実 瀬川:板尾創路 谷口:近藤芳正
舞台は九州にした? ロケ地は大牟田
https://www.yomiuri.co.jp/local/fukuoka/news/20211214-OYTNT50150/

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・ミステリー 日本
感想投稿日 : 2023年1月16日
読了日 : 2023年1月14日
本棚登録日 : 2023年1月14日

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