奇想の系譜 (ちくま学芸文庫)

著者 :
  • 筑摩書房 (2004年9月9日発売)
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本棚登録 : 987
感想 : 76
5

『奇想の系譜』
2023年10月3日読了

江戸絵画といえば…という本にも関わらず、何度か挫折してやっと読み終わった。
現在では、超有名ともいえる6人の画家を取り上げ、彼らの特徴を多くの画像とともに紹介してくれる。

以下に自分のメモとして、各画家の特徴を列挙しておきたい。

①岩佐又兵衛
「絢爛にして野卑」とした廣松保氏の言葉がしっくりくる。
これほどまでに長大な絵巻や屏風を注文するのだから、注文主はいい身分の者だったのであろう。そんな中にあっても色あせない”アクの強さ”。本書では、どこにも属さない”個性的感覚のアク”とし、その要素として①奇矯な表現的性格②古典的・伝統的なテーマを卑俗・当世風にすり替える要素③人物の描写に関する風変わりな特徴、この3つをあげている。

②狩野山雪
彼のどの作品においても、「偏執的」という言葉が当てはまるのではないだろうか。(文中でも多々使われているように感じるのは、わたしだけではないはず…)
画題のある一面をとらえ、それを誇張し執拗に描く。それは梅の枝の生命力だったり、寒山拾得の奇怪な顔貌にみられる気味悪さだったりする。画題に宿る一面を自身の表現力と対峙させるかのような、そんな執念深さが感じられてならない。

③伊藤若冲
観察と写生に基づく圧倒的なリアリティ。それでいて「幻想的」とも言われる美しさが内在する。タイトルにもなっている「幻想の博物誌」とは、まさに言い得て妙だと納得する。「圧倒的な現実感」と「幻想さ」その共生が、現代でも多くの人を惹きつけてやまない理由かもしれない。

④曾我蕭白
まさしく「奇矯」を表現したかのような作品の数々。
曾我派という室町から江戸初期にかけて活躍した一派から影響を受けたとさる。その画風の奇矯な要素と、蛇足十世のいかめしい肩書とを、蕭白の自己表現の手段として用いたとされ、セルフプロデュース能力の高さも伺える。

⑤長澤芦雪
高貴さよりもより身近な庶民世界に表現しようとした画家ではなかろうか。
円山応挙に指示し曾我蕭白にも影響を受けたとされる。文中で作者は「応挙という〈水〉を離れることができなかった」「蕭白の後とあっては、二番煎じを免れなかった」としている。しかし、線の芸術としての彼の卓抜さを指摘しており、「庶民的な世界」に再現した点で評価されるべきとしている。

⑥歌川国芳
「洋風表現と幻想性の独特な結びつき」という本書中の表現が、彼の作品を端的に表している。遠近法や陰影のつけ方など西洋画由来の表現が、日本的な画題の中にあって、「じっとりとした」とでもいうような独特の存在感をはなっている。また、アンチボルトを彷彿とさせる〈合成された顔〉や〈釘絵〉で描かれた戯画シリーズ、武者絵や故事に託した政治風刺画など、注目すべき作品の幅広さにも驚かされる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年10月5日
読了日 : 2023年10月4日
本棚登録日 : 2023年10月4日

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