蹴りたい背中

著者 :
  • 河出書房新社 (2003年8月26日発売)
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大学生がこれを書いたのかと思うと、その描写力と鋭敏な比喩表現に非凡さを感じざるを得ない。簡潔な文体にして的確。

僕も高校時代はハツと似たような面があったから、共感できる要素が多かった。ハイティーンに差し掛かる年齢の、クラスのアウトサイダーになりつある少年少女のメンタリティ。自己とその他を区別し、グループ化していくその他を冷めた視線で捉え、嫌悪感すら抱いていく。個性と没個性を強烈に意識するがゆえの不器用さを抱えながら膨らむ自我が揺れ動く。10代の頃に自意識過剰が振り切れる、あの体験に近いかなと。

そして、にな川というアウトサイダーでありながら全くハツとは異質な思考を持つ異性。思考は違うけれども、どこかでハツと情緒が繋がってしまうのだと思う。ステレオタイプな恋愛感情を飛び越した嗜虐心なのか、彼の背中を蹴りたい衝動が生まれるけれども、その正体はやはり単純な理性では掴めない、ハツの内側から呼び覚まされるプリミティブな暴性とイビツな愛おしさ、その他微細な感情の複合物なのだろうと思う。気になったのは、ハツのにな川への感情の中に性的衝動が微妙にあるのか無いのか分からないない点だ。有無のどちらともとれる表現はあったように思うけれど、明確には示さないという意図なのか、僕の感性では読み取れないだけなのか……。

アイドル的な人気モデルに入れ込むにな川の生態は、キモオタそのもので笑えた。ハツはそのキモオタ性を気持ち悪いと思っているだろうし、馬鹿にもしているけれど、一方でそこに、にな川のパーソナリティと結合した強烈な個性として愛おしさを感じてしまっているという点で、没個性側(クラスの仲良しグループ)とやはり峻別できてしまう。

大人びたシニカルな目線と対比的に感情を持て余すハツの未成熟さが顕れるところや、経験の無さゆえに外出時の服や履き物のチョイスに失敗するところなどに10代のリアリティを感じたし、そこはこの作品の情緒的な味わい深さだと思う。

純文学に重厚さを求める向きには軽い作品かもしれないけれど、年齢性、時代性、感性、情緒性、など、いずれにおいても鋭く過不足なく描き抜く筆力は非凡だと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年2月21日
読了日 : 2020年2月21日
本棚登録日 : 2020年2月4日

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