華岡青洲の妻 (新潮文庫)

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  • 新潮社 (1970年2月3日発売)
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八月三十日 有吉忌 
有吉佐和子さんの作品はほとんど読んでいませんが、華岡青洲の妻は、とても引き込まれた作品でした。
華岡青洲は、世界で初めて全身麻酔による乳癌手術に成功した外科医。庶民大衆への治療に従事しながら、麻酔剤を精力的に研究していた。
主人公は、この医師の妻となった加恵と、この医師の母である於継。母は、大成を期待する息子の為に、自ら嫁として加恵を選ぶ。選ばれた嫁は、美しい姑に畏敬の念さえ持ち、喜び嫁ぐ。
しかし、嫁姑は、一人の男性、青洲を巡り、優位性を保つ為、静かに激しく対立していく。
そして、麻酔剤の人体実験をも競い合うように申し出る。青洲は、母には軽度の麻酔剤を試し、妻には完成を目指す麻酔剤を投与する。
以前(すっごく以前ですが)読んだ時、実は、全部史実だと思っていた。それほど、この女性たちの冷戦状態が生々しい。この母嫁の存在は事実らしいけど、創作であり小説。
華岡青洲を医師として成功させる為、家族が献身的に支える。それに応えていく青洲に家族は幸福を得る。とはいえ、姑は息子を我が物とし医師の母として生き抜き、妻は寄り添うことを切望しながら医師の妻として生き抜く。
世間からは美談とされた献身の影の恩讐。たぶん、それに気がついていたけれど、研究に没頭する青洲。青洲の功績を、当時の封建社会下の家庭にふみ込んで、親子、夫婦、兄弟姉妹、それぞれの心理戦を加え名作だと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学忌
感想投稿日 : 2022年8月31日
読了日 : 2022年8月31日
本棚登録日 : 2022年8月31日

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