星やどりの声

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (2011年10月29日発売)
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本棚登録 : 1950
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海の見える町に住む三男三女母ひとりの早坂家は、純喫茶「星やどり」を営みながらささやかに暮らしている。家族それぞれが悩みや葛藤を抱えながらも、母の作るビーフシチューに心を和まされ、穏やかに日々を過ごしていた。ある夏、早坂家に亡き父が残した奇跡が起こる。

上は既婚で宝石店の販売員から下は小学6年生まで、早坂家の6人の子供たちがそれぞれ主人公になって6つの物語を紡いでいく。著者の朝井リョウらしい瑞々しい感性に彩られた物語は、主人公の年相応の悩みや感受性を織り交ぜながら展開する。しかし6つの物語を読み終えると、今まで私が読んだ著者の作品にはない、「家族」が醸し出す温かさで心がいっぱいになった。早坂家は数か月前に父親をがんで亡くしている。それ以来家族の中心がぽっかり空いてしまい、早坂家は皆、同じ喪失感を共有している。父親はもはやこの世に存在しないにもかかわらず、物語の中で大きな存在感を示している。6人の子供たちを描くことで、自ずと今は亡き父の姿が浮かび上がってくる。物語のラストでは、父が遺した家族への愛が明らかになり、私は強く心打たれた。「家族」という決してほどけることのない結びつき、つまり“絆”そのものを描いた優しさ溢れる物語だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 家族
感想投稿日 : 2014年11月29日
読了日 : 2014年11月27日
本棚登録日 : 2014年11月29日

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