スカイ・クロラ (中公文庫 も 25-1)

著者 :
  • 中央公論新社 (2004年10月25日発売)
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人が乗っていても、乗っていなくても、堕ちていくのは飛行機であって、その飛行機の内臓まで考える暇なんてない。

僕たちは、確かに、退屈凌ぎで戦っている。
でも……、
それが、生きる、ということではないかと感じる。

呼吸さえしていれば、死ぬことはない。食べて、寝て、顔を洗い、歯を磨く。それを繰り返すだけで、たったそれだけで、生きていけるのだ。
唯一の問題は、何のために生きるのか、ということ。
生きていることを確かめたかったら、死と比較するしかない、そう思ったからだ。

どうしてコクピットを開けなかったかって?
たぶん、死ぬときは、何かに包まれていたかったのだ。
生まれたときのように。
そんな死に方が、僕の憧れだから。

ボールの穴から離れた僕の指は、
今日の午後、
二人の人間の命を消したのと同じ指なのだ。
僕はその指で、
ハンバーガーも食べるし、
コーラの紙コップも摑む。
こういう偶然が許せない人間もきっといるだろう。

いつ堕ちても良い。
いつ死んでも良い。
抵抗があっては、飛べないのだ。

同じ時代に、今もどこかで誰かが戦っている、という現実感が、人間社会のシステムには不可欠な要素だった。
本当に死んでいく人がいて、それが報道されて、その悲惨さを見せつけないと、平和を維持していけない。いえ、平和の意味さえ認識できなくなる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2019年11月20日
読了日 : 2018年9月15日
本棚登録日 : 2018年10月17日

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