トレヴェニアン作「シブミ」の前日譚。「トレヴェニアンことロドニイ・ウィテカーは、独創的な大作家で、真似ようとする者は一流コメディアンの芸風を下手くそになぞる三流芸人に見えるのがおちだろう」。ウィンズロウ自らが著者あとがきにこう記している。三流とまではいかないが、本書と「シブミ」を比べるとウィンズロウほどの手練れにして二流の上程度に見えてしまうのは致し方ないところなのだろう。アクションシーンはふんだんにあって映画を観るようにビビッドではある。しかし、そのこと自体、すでに「シブミ」が失われているといっていい。「シブミ」ではニコライ・ヘルの暗殺シーンはほとんど出てこない。暗殺や活劇を極力書かずして「暗殺者の物語」を紡ぐ。そこが「シブイ」のだ。とはいうものの、ウィンズロウが新たに世に問うたニコライ・ヘルの物語にはトレヴェニアンとはまた違った持ち味があることも事実で、チャンドラーの遺作をパーカーが引き取って完成させた「プードル・スプリングス物語」を彷彿とさせる。何人もチャンドラーの真似はできないことを百も承知で開き直って見せたパーカーの潔さと、ウィンズロウの思い入れが二重写しのように滲んでくる。「サトリ」には渋さも侘び寂びもこれっぽちっも感じられなくて、むしろハリウッド的であるのだけれど、「シブミ」とは別物だと割り切れば、これはこれで楽しめます。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
2011年
- 感想投稿日 : 2011年6月14日
- 読了日 : 2011年6月14日
- 本棚登録日 : 2011年6月14日
みんなの感想をみる