音楽の海岸 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1997年4月14日発売)
3.27
  • (32)
  • (73)
  • (166)
  • (30)
  • (11)
本棚登録 : 855
感想 : 70

自分に惚れてる女たちを依頼があれば派遣しあがりを分け合う女衒のような暮らしをしてたケンジ。ある時から音楽一切を受け付けなくなってしまっていたが、ニースからモナコの海岸にあるという、何の情報も知識もコードも必要とせずに聴けるという音楽には憧れがあり。そんな中ある男から受けた、自分の女をおかしくした映画監督を社会的に抹殺し破滅させてほしい、という依頼。ケンジは女たちから情報を集め、映画監督や秘書に近づき、ある変態の医者をターゲットとして巻き込んで、そのプロジェクトにのめり込んでいくが…と。緊張感のあるダイアローグ。演技と策略と自らの中の欲望の正視、侮蔑と共感、憧憬。ないまぜになった饒舌。ターゲットを壊すことは、タフであることを自負していた自分が壊れることにもつながっていた。SM論と音楽論をほうりこんでまぜあわせて繰り広げられる物語。そして希望だけがない国というコンセプトがすでにこの時語られていて、のちの「希望の国のエクソダス」につながっていたんだな、とわかった。◆本当に死ぬ人は、例えその時、誰かに止められたとしても、いつか一人になった時に死ぬもんです。それに、人間が発狂したら、もうその人は別人になったと思わなければいけない。別人なわけだから、最初からやり直さなくてはいけないんです。◆あんたは喜んで犬のマネをしている自分が本当の自分なんだってことに気付いたんだよ。◆みんなが仲良くしなければいけないという教えが、あらゆる関係性の上に(略)のしかかっているので、それに耐えられなくなった連中が、できるだけ弱い部分を狙っていじめる。◆人類はどうして、こんなにきれいなメロディを必要したか(略)基本的に敗北者だからだろうと、思ったんです(p.255)◆生きる希望、生きていく希望は妄想以外にあり得ず、それにノーマルな形を与えたものが音楽。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年6月25日
読了日 : 2022年6月25日
本棚登録日 : 2022年6月12日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする