夜波の鳴く夏 (角川ホラー文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (2012年8月25日発売)
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本棚登録 : 99
感想 : 15
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書店で平積みにされているのを見て、ふっと購入しました。
何しろ、表紙のイラストが、三津田信三さんの刀城言耶シリーズの表紙を手掛けている、村田修さん。そして、『夜波の鳴く夏』という、いかにも、という雰囲気のタイトル。
あらすじを読んでみると・・・ぬっぺほふが主人公!?
これはもう、買うしかないと。

一気読みをしての感想は、まず、「凄いものが出てきた!」でした。
有り得ない設定なのに、さらりと受け入れてしまえるうまさ。そして、単に、「怖い」や「ホラー」なのではなく、人間の内面を抉り出すような小説でした。
例えば、妖怪のぬっぺほふたちは、人間の顔を喫む(舐める)のですが、舐められた人間は、数回では何の変化もないものの、徐々に人間らしさが失われて行き、ただ、人の形をした、食欲と性欲のみのモノに変わり果てるのです。そこで為される説明は、ぬっぺほふたちが舐めるのは、単に人間の顔の皮膚ではなく、徐々に失われる事になる、人間らしさ、なのだと。
それから、見た者を不幸にするという、途轍もない毒を持つ絵、『夜波』も、作中でそれと同じような役割を果たします。
一見ただの黒く塗り潰されただけの絵。でも、『夜波』に魅了される者は、その中に、それぞれ違ったものを見ます。『夜波』の持つ毒というのも、どうやら、持ち主の抱える罪の意識を暴くもののようで、ここでも、人間の内面が曝け出されて行きます。

飴村行さんの粘膜シリーズと、そして妖怪が好きなら、きっとはまる作品です。



それから、最近知ったのですが、村田修さんは、津原泰水さんの実弟なのですね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2012年9月9日
読了日 : 2012年9月9日
本棚登録日 : 2012年9月9日

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