八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)

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  • 新潮社 (1978年2月1日発売)
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1902年に、世界山岳史上最悪とも言われる犠牲者を出した、八甲田山における山岳遭難事故を題材とした小説(1971年出版、1978年文庫化)。本書を原作として1977年に公開された映画『八甲田山』は、当時日本映画として最大の配給収入を上げたという。
題材となった八甲田雪中行軍は、日露戦争直前にロシアとの戦争に備えた寒冷地における戦闘の予行演習として、神田大尉(映画では北大路欣也)率いる青森歩兵第5聯隊と、徳島大尉(同・高倉健)率いる弘前歩兵第31聯隊が雪の八甲田を縦走するというものであった。しかし、雪中行軍演習の経験がある徳島大尉が、綿密な下準備を行なった上で、機動性を重視して小規模な編成で臨み、全員が生還したのに対し、神田隊には上官である山田少佐を含む大隊が随行し、山田少佐から不適切な干渉を受けるなどして、210名中199名が死亡するに至ったのである。その冬は、北海道で史上最低気温を記録するなど、記録的な寒さであったとも言われている。
本遭難事故は、司馬遼太郎の『坂の上の雲』に詳しい、近代海戦史上例のないパーフェクトゲームと言われた日本海海戦を含む日露戦争の勝利の前に起こったものではあるが、精神論の重視、指揮系統の不徹底、準備・情報不足など、後の太平洋戦争での敗北の要因のいくつかが既に見られ、本作品はそうした教訓を得るものとして読むことはできる。しかし、映画を含めた本作品の迫力は、そうした教訓を口にするのも躊躇われるような、えも言われぬものである。
映画とともに、一度手に取るべき大作である。

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感想投稿日 : 2016年1月15日
読了日 : -
本棚登録日 : 2016年1月15日

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