地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減 (中公新書)

著者 :
  • 中央公論新社 (2014年8月22日発売)
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増田寛也(1951年~)氏は、東大法学部卒、建設省勤務(その間、千葉県警、茨城県庁等への出向あり)、岩手県知事(3期)、総務大臣(内閣府特命担当大臣)、東大公共政策大学院客員教授、野村総合研究所顧問等を経て、現在、日本郵政(株)社長。
私は新書を含むノンフィクションを好んで読み、興味のある新刊はその時点で入手するようにしているが、今般、過去に評判になった新書で未読のものを、新・古書店でまとめて入手して読んでおり、本書はその中の一冊である。(本書は2015年の新書大賞)
本書は、著者が座長を務めた、民間の政策提言機関「日本創成会議」の「人口減少問題検討分科会」が、2014年に発表した「ストップ少子化・地方元気戦略」の検討結果を中心に書籍化したものである。いわゆる「増田レポート」と呼ばれる報告書の中では、全国の896の自治体を「消滅可能性都市」として名指しで公表したことから、その反響は非常に大きかった。
私は、消滅可能都市が名指しされているということで、少々悪趣味なレポートという印象を持っていたのだが、本書を読んでみると、内容は事実・データに基づいた至極真っ当なもので(当然と言えば当然なのだが)、広く認知されて然るべきものである。尚、消滅可能性都市については、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」をベースに、その前提を、「地方からの人口流出は一定の収束がある」から、「現在と同程度の人口流出が今後も続く」に変えたもので、その結果、2010~40年の30年間に、人口の「再生産力」を示す20~39歳の女性人口が50%以下に減少する市区町村は、全国1,800の地域の49.8%に当たる896(うち、人口1万人未満となるのは全体の29.1%の523)と推定され、それらの地域は存続できなくなる可能性が高いとされたのである。
そして本書では、その原因を、①日本全体の人口減少と、②地方から大都市圏への人口(特に若年層の)移動とし、それぞれへの対応の提言がなされている。①については、若年層の収入の安定化(「若者・結婚子育て年収500万円モデル」)、結婚・妊娠・出産・子育ての支援、ワークライフマネジメントの推進、女性活躍・登用の推進、高齢者の再活用、海外高度人材の受入れ、②については、地方中核都市の機能・再生産能力の向上、小規模自治体のコンパクトシティ化、子供や若者にとっての魅力ある街作り、中高年の地方移住の支援、スキル人材の中央から地方への再配置、地方金融の再構築、農林水産業の再生、等で、(今や)特段目新しいものではないが、コロナ禍により否応なく進んだ働き方改革や生活様式の変化は、これらの対策推進の後押しになるだろう。また、実際に若年女性人口が増加している自治体を、「産業誘致型」、「ベッドタウン型」、「学園都市型」、「コンパクトシティ型」、「公共財主導型」、「産業開発型」の6つのモデルに分類した上で、「産業開発型」で成功している、秋田県大潟村(農業)、福井県鯖江市(中小製造業)、北海道ニセコ町(観光)、岡山県真庭市(林業)等の取り組みも紹介されている。
更に、巻末には、藻谷浩介氏、小泉進次郎氏と宮城県女川町長・須田善明氏、慶大教授・樋口美雄氏との、3つの対談が載っているが、私は今般、藻谷氏の『デフレの正体』、『里山資本主義』も併せて読んでおり、全体としての認識が深まった。
日本に起こっている事実、また、(対策を打たなければ)遠からず必ず起こる状況を、正しく認識するために、一読しておいていい一冊だろう。
(2022年10月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2022年10月14日
読了日 : 2022年10月20日
本棚登録日 : 2022年10月14日

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