著者の小倉ヒラク(1983年~)は、早大文学部(文化人類学専攻)卒のデザイナーで、約10年前に研究を始めた発酵醸造学に関連する仕事を多数手掛けるデザイナーとして、自らは「発酵デザイナー」と称している。
本書の書名は「発酵文化人類学」と付けられているが、そうした一般に認知された研究分野が存在するわけではない。あくまでも著者が「発酵を通して人類の暮らしにまつわる文化や技術の謎を紐解く」としているものであり、本書は、「発酵」をキーワードにした著者のこれまでの経験や知見、更には「発酵食品」の魅力・楽しさを伝えようとするものである。(著者はまえがきで明確に「いわゆる発酵の入門書でもないし、かといって文化人類学の専門書でもありません」と断っている)
その取り上げられた内容(キーワード)は、発酵vs腐敗、カビと酵母と細菌、古事記に登場するヤマタノオロチ、中国の麹と日本の糀(どっちも「こうじ」)、「手前みそワークショップ」(家庭で味噌を作ろう!という活動)、世界の発酵文化、スタンダード発酵とローカル発酵、すんき(木曽町の漬物)、碁石茶(高知県嶺北地方のお茶)、くさや(新島の魚の干物)発酵菌と酵素、醸造酒と蒸留酒、甲州ワイン、日本酒の流行の変遷、日本酒・味噌・醤油・ワインの醸造家たち、等々であるが、これらに、レヴィ=ストロース、マリノフスキーらの文化人類学的アプローチ(ブリコラージュ、贈与経済、冷たい社会と熱い社会など)、更には、生命科学の最先端分野であるゲノム編集まで広がる。
我々の食生活の中に浸透した「発酵」食品に改めて焦点を当て、幅広い角度から語り尽くした本書のアプローチは奇抜で非常に面白いものである。(発酵についての文化人類学的な考察の妥当性は判断できないが。。。)
「発酵をめぐる冒険」に誘い、「発酵」の面白さ・奥深さを再認識させてくれる良書と思う。
(2017年12月了)
- 感想投稿日 : 2017年12月9日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2017年7月30日
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