大衆教育社会のゆくえ: 学歴主義と平等神話の戦後史 (中公新書 1249)

著者 :
  • 中央公論新社 (1995年6月24日発売)
3.69
  • (37)
  • (52)
  • (65)
  • (5)
  • (4)
本棚登録 : 708
感想 : 53
5

東京大学大学院教育学研究科教授(社会学)の苅谷剛彦(1955-)による大衆化する教育社会における階層問題の考察。

【構成】
第1章 大衆教育社会のどこが問題か
第2章 消えた階層問題
第3章 「階層と教育」問題の底流
第4章 大衆教育社会と学歴主義
第5章 「能力主義的差別教育」のパラドクス
終 章 大衆教育社会のゆらぎ

「大衆教育社会とは、教育が量的に拡大し、多くの人びとが長期間にわあたって教育を受けることを引き受け、またそう望んでいる社会で」あり、本書で挙げられる特徴は以下の3点である。
 (第1の特徴)高い高校進学率・大学進学率
 (第2の特徴)「メリトクラシーの大衆化状況」の現出
 (第3の特徴)大衆化したメリトクラシーを通じて選び出される特定の社会
        階層の文化との親近性格をそれほど強く持たない「学歴エリ
        ート」の存在

 1950年代には至るところで見受けられた貧困層の低学力問題は、高度成長を経て一億総中流の大衆社会の出現によって消滅した。かわって、学歴エリートへの批判が持ち上げってくる。1991年の中教審小委員会の中間報告においては、私立中高一貫高の国公立大への進学実績伸張による、大都市部富裕層によるエリート階層の独占化が危惧された。しかし、この批判が的外れであることを1950年代以来のエリート層輩出家庭の分析により明らかにされる。つまり、東大をはじめとする有力大学は一貫して、上層ノンマニュアル層の子弟の寡占状態であり、私立中高一貫校の普及とは関係がない。
 とはいえ、教育社会学の研究者が長年積み重ねてきた階層と教育の問題が社会的な問題として大きく取り上げられる機会は少なかった。

 それは、学歴取得前ではなく、学歴取得後の社会的格差を問題にし続けた「能力主義教育批判」という教育界の一大潮流にあった。この潮流こそ、教育の形式的な画一化を求める「画一的平等化」と平等原則に基づく教育の機会拡大を求めることになった。しかし一方で、このような教育機会の平等化要請により、同等の学力レベルに達した生徒達による学歴獲得競争が激化するというパラドクスも同時に生じた。

 以上のような、大衆教育社会の状況を、実証的に示す本書の議論は明快である。同時に
このような歪な大衆学歴社会を改善する特効薬も見あたらないのもまた本書で明らかにされている通りである。評者を含め我々戦後世代が歩んできた「学校教育」の構造的な問題点を認識する上で、本書の存在は非常に有意義であり、教育について少しでも関心のある人間には是非一読していただきたい一冊である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書(中公)
感想投稿日 : 2012年2月18日
読了日 : 2010年5月5日
本棚登録日 : 2010年8月13日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする