巨大訴訟(上) (新潮文庫 ク 23-31)

  • 新潮社 (2014年2月28日発売)
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感想 : 7
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タイトルはずばり『訴訟者たち』。訴訟社会と言われるアメリカに生きる弁護士たちの生態を、少しブラックに描いた、グリシャムにしては珍しくコメディ色の強い作品である。

薬害訴訟に関わるスケールの大きな話の筈が、いきなり街角のしけた法律事務所の猥雑な描写に始まる。

一方、その朝、シカゴ一のタワービルの法律事務所に勤務するハーバード卒のエリート弁護士の主人公が、それまでの不毛な仕事の日々から逃走し、バーのカウンターでアルコールを浴び始める。

二つの交互に語られる奇妙な脱線話が、その夜の交通事故現場で交錯し、三人の弁護士の運命の日々がその時から始まる。

題材は、訴訟の対象となる巨大製薬会社というよりも、巨大な金の動く訴訟構造そのものへの痛烈な、しかし皮肉としか言えない現実に向けられたグリシャムの眼差し。

裏路地に生きる弱者たちの貧困や不幸とダイレクトに向き合う本来の弁護士の姿を探し求める若き主人公は、心身ともに貧しい日々を食い荒らす二人の中年弁護士たちとの出会いに期待をかける。

生憎、作品順序は逆となってしまったが、つい先日読んだばかりの『汚染訴訟』とは、姉妹作品かと思われるほど、構図が似ている。主人公が経験三年目の独身女子ではなく、五年目の既婚男性ではあっても。リーマンショックの余波を受けてマンハッタンの巨大法律事務所から放り出されたのではなく、ある朝突然に仕事場へ向かわずバーカウンターにしけ込んだにしても。

行き着く先は弱者の待つ場所。巨大組織の人間不在な訴訟社会の醜悪さ。追い込まれ、そこから逆転を狙う構図。二作はやはりとても共通した姉妹作に思えるのだ。

『汚染訴訟』がシリアスな自然破壊や社会悪のどぎつさに張り詰めた田舎町のシリアスな物語とすれば、本書は破茶滅茶なキャラクターを頻出させたシカゴ裏町の冷笑喜劇。だとしても、共通するのは若き法律家たちのダイナミックな成長譚であり、問われるのはそれらを必要とする弱者たちに正しく使われるべき法執行の正しい在り方である。

テンポや波長は大きく違う作品ではあれ、どちらもグリシャムならではのストーリーテリング、ページターナーぶりが健在。法律家と訴訟を材料に二つの味付けで全く異なる料理を楽しむ。『巨大訴訟』と『汚染訴訟』の邦題にも編集者のそんな意図が感じられなくもない。二作を対照的に眺めて姉妹編として纏めて楽しんで頂きたい作品でもある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: リーガル・サスペンス
感想投稿日 : 2019年2月14日
読了日 : 2019年2月11日
本棚登録日 : 2019年2月11日

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