花々 (宝島社文庫 『日本ラブストーリー』大賞シリーズ)

著者 :
  • 宝島社 (2012年7月5日発売)
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本棚登録 : 869
感想 : 84
4

 『カフーを待ちわびて』のスピンオフ作品。この作品単独でも楽しめるとも思うけれど、あの鮮烈なデビュー作とペアで読んで頂くと、物語の時代や地平が陸続きで繋がるので、ダブルどころかそれ以上に楽しむことができると思う。単純な1+1ではなくて4倍にも16倍にもなるかもしれない立体感覚である。
 ちなみに陸続きというのは言葉の綾で、孤島の物語がメインの舞台となるところは元作品と同じ。但し、この本の登場人物は旅人ばかりなので、一つ所にとどまらない。ゆえに複数の孤島が別の舞台として登場する。本土の街だって舞台の一つとなる。モデルとなる島や場所はあっても、すべて架空の設定となっているので、ドラマ『Drコトー診療所』と同じイメージでトライして頂くとよいだろう。
 本作は、都会から島に住み着きダイビングショップで働く純子、島の生まれだけど東京に出てビジネスウーマンとして活躍してきた成子、という二人の交互の視点で綴られる一冊である。いわゆる連作短編集でもあり、全体で一作の中編小説とも読める。長編小説と言いたいが、ページが少なく、活字も大きい。中編の部類を長編一冊の値段で無理やり商品化したよ、というちゃっかりした印象。
 おまけに表紙イラストが少女コミックみたいなので、公共の場所ではブックカバー無しでは読みにくい。個人的には、一気に自宅で読み終えることに成功し、ほっとした次第。ちなみにぼくはブックカバーを使わない人なので。
 外観はともかく、内容は、『カフー、、、』を読んだ人ならば同じレベルで楽しめると思う。スピンオフ作品であるだけに、共通する登場人物たちの他の側面や違った物語を辿ることができるし、島の歴史や島民たちの印象を、さらに違った角度から俯瞰的に見ることもできる。明青や幸や愛犬カフーも、端役ながら登場させるサービス精神くらいは、この作者なので当然しっかり持っているので、ご安心あれ。
 さて、二人のヒロインの視点で交互に語られてゆく本作だが、他にも奈津子という気になる個性が、何度か彼女らの物語と交錯する。三人の女性が皆それぞれのオリジナルな人生と物語と生き様を抱えているのはもちろんのこと、彼女たちの運命がちょっとした交錯したり、邂逅し合ったりする構図が、不思議とじんと来たりする名シーンづくりの上手さは、この作者の持ち味で、作者の持つ女性ならではのデリカシーがいい具合に作品作りのスパイスとなっていると感じさせてくれる。
 まさか自分でもこの齢になって、言わば女性小説?を読むことになるとは思わなかったが、原田マハ作品には、国境も性別も年齢もあまり関係ないのだ、と最近では割り切れるようになってきた。人生を語るのに立ち止まる地点がどこだと定められているわけではないではないか。悲しみや歓びは、いつだって不意をついてやってくるものなのだ。
 この作家の作品では、様々な個性たちのそれぞれの人生の瞬間や、違った心の流れが、不思議なハサミで切り取られて構成されているように思う。それは、ぼくらが美しい海や空に眼を向ける一瞬のように、はっと気づかされる類いのものであったり、何かを想い出すとき、これまでずっと忘れていた大切なものごとに改めて気づかされるような、きっと人生のしおりみたいな瞬間だからだ。
 これからも折につけ、この作家の本を開こう。そのときには安心して心を預けよう。読み終わる都度、いつもぼくはそう思っている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ヒューマン
感想投稿日 : 2023年1月12日
読了日 : 2023年1月9日
本棚登録日 : 2023年1月9日

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