BANANA FISH ANOTHER STORY (1) (小学館文庫 よA 22)

著者 :
  • 小学館 (1997年11月17日発売)
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 BANANA FISHは私が今までに出逢った作品の中で最も感銘を受けた作品だ。そしてANOTHER STORY、中でも『光の庭』は本作中で一番胸を打たれたエピソードだった。
 アッシュを失って7年の月日が経ってもなお、彼の背中を追い続ける英二。罪悪感を抱えながら英二を見守り、自身はアッシュに敵わないと苦しみ続けるシン。二人はアッシュの影を追いつつも、同時にそれから逃れようとしていたのではないだろうか。
 そんな中、日本から伊部の姪:暁がやって来る。そして、彼女をきっかけに英二とシンの時間は再び動き始める。

 本編時代からシンを推している私にとって、光の庭はあまりに苦しい話であった。英二は苦しむのが許されているのに、シンには許されていないような、そんな感覚。自身の名前にすら『罪』の意識を感じてしまうほど彼は追い詰められていたのに、暁が来るまでの7年間、彼は一体誰に頼ることができたであろうか。
 月龍がシンに忠告した、「思い出と戦っても勝ち目はないよ」というあの言葉も、きっとシンには的外れだったのだろうと思う。シンは知っているのだ。英二にとって、アッシュはまだ『思い出』にすらなれていなかったことを。写真を見返すことも、図書館を視界に入れることもできない。彼に似た背中を見つけては追ってしまう。そんな英二が、いまだにアッシュの死を受け入れられていないことを。
 その姿を見かねたシンは英二に対し、アッシュのことはもう忘れろと口にする。それはシンが7年間の罪の重さに押しつぶされる前の、最後の叫びでもあったように見える。
 だけどもう、二人ともアッシュのことを忘れることなんてできやしないのだ。それでもシンの苦しみは確実に英二の心に届いたはずである。英二がアッシュの人生を『奇跡のような生』と言ったその時から、二人の時間は再び動き出したのだと私は思う。
 それぞれの生を受容することは、その死を受容することの裏返しだ。アッシュの死と、シンの生。アッシュの魂は英二に夜明けの光を与え、その光はシンの闇をも晴らしていく。各々が受容した生死とその魂を同時に抱えながら、彼らは『その時』を生きていくのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年3月25日
読了日 : 2019年4月1日
本棚登録日 : 2021年3月24日

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