旅にまつわる女性たちの4つの物語。心が晴れ晴れとする読後感が味わえる作品です。
最初の物語は、築き上げてきたキャリアやプライベートに行き詰まりを感じている女性社長・涼香が、旅先での印象的な人物との偶然の出会いを通じて、生きる活力を取り戻していく話で、勤め人の心によく響きます。
特に印象深い旅先の登場人物が、表題にもなっている「さいはての彼女」です。ハーレー好きだった父親に背中を押され、障害を乗り越えて、カスタムビルダーになるほどハーレーにのめり込み、「サイハテ」と名付けた愛車を駆って長旅に出る華奢な若者ナギ。
物語は、退職間際の心の離れた秘書に、セレブな沖縄旅行を手配させたつもりが、北海道知床の地でポンコツの軽自動車に乗り、途方に暮れるという場面から始まります。そんな時に涼香はナギと出会い、サイハテでさいはての旅を共にします。ナギのひたむきな人柄と彼女を温かく見守る人々との出会い、そしてお互いが抱える過去の自己開示を通じて、凝り固まった心が次第にほぐれていきます。秘書の手配の意図が意趣返しなのか、気付きを与えるためなのか、余韻を残す終わり方も良い感じです。
こうした予想外の旅先での人々との出会いの展開に、遠い昔に旅先で出会った親切な人たちとの珍道中?(台風接近!沖縄→和歌山→京都→大阪→東京)の記憶が呼び覚まされ、ふわふわとした良い気持ちになれました。
原田マハさんの作品は、まったく毛色の違う「ジヴェルニーの食卓」に続いての読了ですが、当時も思わずモネの作品集を手に取りたくなったように、心に何かを残していきます。旅に出るか…。明日も仕事です。
- 感想投稿日 : 2023年8月3日
- 読了日 : 2023年8月3日
- 本棚登録日 : 2023年8月3日
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