錦繍(きんしゅう) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1985年5月28日発売)
3.84
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本棚登録 : 6977
感想 : 744
5

「錦繍」美しい作品名である。新潮文庫の100冊の定番。長年気になっていて、夏に読むものではないなと思いながら数年が過ぎ、今秋、自分の中で機が熟したか、手に取った。読んで良かったと思える作品であった。

紅葉の季節、元夫婦が10年ぶりに蔵王のゴンドラ内で遭遇し、お互いの変化の大きさに驚くも少し言葉を交わして別れる。その後、不意に届いた元妻・亜紀からの一通の手紙で始まる10か月、14通に及ぶ往復書簡により物語は紡がれる。

手紙のやり取りを通じて、10年前に別離の契機となった壮絶な事件の当事者である元夫・靖明と謎めいた死を遂げた女性・由加子との男女の関係と中学時代からの因縁が明らかになる。男が少し影のある美しい女性に惹かれるのは普遍的事象か。

亜紀は思いを秘めながら、口を閉ざす靖明と離婚する。その後、再婚するも障害のある息子・清高を抱え、夫も愛せず孤独を感じていた。突然の別れの空白を埋めるように、手紙を出し続けるうち、亜紀は母親としての運命を受け入れていく。

一方、亜紀の手紙に過去の裏切りを詫び、現在の零落ぶりを綴る靖明だが、亜紀の何気ない死生観に纏わるエピソードに自身の臨死体験が重なったことを契機に、自分を逞しく支える女性・令子との現在を語るようになり、次第に再生していく。

往復書簡を通じて過去を清算し、現在の生き方まで変えていく過程に、女性たちの強い「情念」を感じ、それぞれの想いに心が揺さぶられた。シニア世代の話と思いきや30代後半という。この達観ぶりや表現の円熟ぶりは昭和世代の成熟度か。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年10月30日
読了日 : 2023年10月30日
本棚登録日 : 2023年10月30日

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コメント 2件

傍らに珈琲を。さんのコメント
2023/11/01

harunorinさん、こんばんはー!

コレ、良かったなーって印象です♪
昔読んだので、内容忘れておりまして…harunorinさんのレビューでうっすら思い出しました!

『螢川』と『幻の光』も良かったように記憶しています←こっちも忘れてる 笑

harunorinさんのコメント
2023/11/01

傍に珈琲を。さん、こんばんはー(*´꒳`*)
宮本輝先生は初読みでしたが、なんか後引く清々しさがあって、すごく好きな作品です。
私は特に忘れっぽくて、レビューも筋を追う感じになりがちなので、うっすら思い出すのに丁度いいかも笑
「幻の光」と聞いて思い出しました。当時、原作者も知りませんでしたが、映画見てました!話はまったく覚えてませんが、モノトーン&スローで寝落ちしてた気がします(´-`).。oO

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