「錦繍」美しい作品名である。新潮文庫の100冊の定番。長年気になっていて、夏に読むものではないなと思いながら数年が過ぎ、今秋、自分の中で機が熟したか、手に取った。読んで良かったと思える作品であった。
紅葉の季節、元夫婦が10年ぶりに蔵王のゴンドラ内で遭遇し、お互いの変化の大きさに驚くも少し言葉を交わして別れる。その後、不意に届いた元妻・亜紀からの一通の手紙で始まる10か月、14通に及ぶ往復書簡により物語は紡がれる。
手紙のやり取りを通じて、10年前に別離の契機となった壮絶な事件の当事者である元夫・靖明と謎めいた死を遂げた女性・由加子との男女の関係と中学時代からの因縁が明らかになる。男が少し影のある美しい女性に惹かれるのは普遍的事象か。
亜紀は思いを秘めながら、口を閉ざす靖明と離婚する。その後、再婚するも障害のある息子・清高を抱え、夫も愛せず孤独を感じていた。突然の別れの空白を埋めるように、手紙を出し続けるうち、亜紀は母親としての運命を受け入れていく。
一方、亜紀の手紙に過去の裏切りを詫び、現在の零落ぶりを綴る靖明だが、亜紀の何気ない死生観に纏わるエピソードに自身の臨死体験が重なったことを契機に、自分を逞しく支える女性・令子との現在を語るようになり、次第に再生していく。
往復書簡を通じて過去を清算し、現在の生き方まで変えていく過程に、女性たちの強い「情念」を感じ、それぞれの想いに心が揺さぶられた。シニア世代の話と思いきや30代後半という。この達観ぶりや表現の円熟ぶりは昭和世代の成熟度か。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2023年10月30日
- 読了日 : 2023年10月30日
- 本棚登録日 : 2023年10月30日
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コメント 2件
傍らに珈琲を。さんのコメント
2023/11/01
harunorinさんのコメント
2023/11/01