紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

制作 : 古沢嘉通 
  • 早川書房 (2015年4月22日発売)
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本棚登録 : 1304
感想 : 153
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中国系アメリカ人作家の短編集。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞受賞の表題作ほか、全15篇を収録。

「紙の動物園」「もののあはれ」「月へ」「結縄」「太平洋横断海底トンネル小史」「潮汐」「選抜宇宙種族の本づくり習性」「心智五行」「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」「円弧」「波」「1ビットのエラー」「愛のアルゴリズム」「文字占い師」「良い狩りを」を収録。

SFに与えられる各賞を総なめにした表題作「紙の動物園」が冒頭に収録されている。最初にもってきたのが正解で、いきなりガツンとやられるインパクトによって、この作家に対する印象が好感あるものに満ちてしまった。折り紙で作られた動物に生命を吹き込むという、ファンタジーを感じる設定ながら、中国系アメリカ人だからこその世界観が巧みに深い母子愛を描き出し、涙なしには読めない結末となっている。文句なしの傑作に喝采だ。

続く「もののあはれ」は、滅びの道にある地球を旅立ち、300年後に到達する深宇宙の星を目指すというガチSFな傑作。ここでも親子愛が基軸となる結末が深い感動を呼ぶ。漢字や日本語がフューチャーされているのが興味深い。
【抜粋――「どんなものでもそれを言い表すのに千もの方法がある」父さんはよく言っていた。「それぞれの場合に合わせたふさわしい表現があるんだ」日本語が陰影と雅趣に満ちた言語であり、一文一文が詩であることを父さんに教わった。日本語は、重層的な言語であり、語られぬことばが語られることばとおなじように深い意味を持ち、文脈のなかに文脈が潜み、まるで日本刀の鋼のように層が重なりある言語である、と。】
他に政治情勢やSFギミックにおける設定も緻密で、この作家はいったい何ヵ国語に精通しているんだ……どれだけ多才なんだ……と空恐ろしくなる一作。物語の感動だけでなく、扱われているテーマも深いものがあり考えさせられる。

最初の2タイトルだけでお腹いっぱいになりお釣りがくるぐらいな上、残りの作品も読み応えあるものばかり。多彩なケン・リュウの世界にどっぷりハマる入門書としてふさわしい一冊になっている。ガッツリSFだったりファンタジーぽい雰囲気だったり歴史改変ものがあったり、様々なタイプの話があるが、「文字占い師」だけは閲覧注意レベルの重たい作品なので、読むときは気をつけてほしい。こういった歴史認識に関わる問題をぶっ込んでいるのもこの作家の特質のひとつなのだろう。あなたのお気に入りはどれですか?読者どうしで語り合いたくなる傑作短編集。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年12月17日
読了日 : 2023年10月30日
本棚登録日 : 2021年4月24日

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