藤沢周平の時代小説。その昔NHKにてドラマ化。
一人の少年藩士が非業の死を遂げた父の仇を打つため、降り掛かる試練や運命を克服していく。初恋の女性や仲間との友情を通して、主人公の成長を力強く、美しく描いた物語。
いや、「王道って面白い!」ということを改めて教えてくれた小説。時代小説はほぼ全く読まないんだけど、文句無しに素晴らしいと思えた。特に最終章を読んじゃったらもう…だめよ。
雑な言い方をすればジャンプ的というか、少年、成長、友情、初恋、運命、試練、打ち勝つ勇気!みたいなそれこそ王道も王道な物語。なんだけども、その要素一つ一つが圧倒的な筆力でとても丁寧に描かれている為に陳腐な感じを与えない。また元が新聞小説というのもあって、展開というか物語の運び方がとても上手い。要するに、小説としてどこまでも正統派で完成度の高い作りになっている。
清く正しく生きる主人公や、タイプの違う二人の友人 もの静かで清廉な初恋の女性ふく、どれも人物としてとても好感が持てる。それぞれのキャラも非常に物語としてはよくあるタイプの人物像。しかし、繰り返し言うけれどもそれぞれの人物造形が本当に丁寧に描かれて、「あ~あ~こういうタイプのキャラね」とか「こういうやりとりね。あるある」みたいな印象は皆無。人物の息づかいまで感じられそうな描写の丁寧さ、緻密さ。要するに、手抜きが無いのですね。
個人的には主人公とふくの恋愛模様をベタベタ描かずに、必要最低限に押さえたというか最低限にすら届いてないんじゃないかというくらいに絞って描いたことがこの物語全体を見た上でとても良かったんじゃないかと思う。
てな感じで最終章を読むまでは、「めっちゃ完成度の高い時代小説だな~」などと感心しつつもそういう批評的な第三者的な視点が抜けきれなかったんだけど、最終章。
この章の持つ哀愁というか悲哀というか哀切たるや尋常でないものがあり、情景描写の美しさも相まって息が止まりそうでした。
この二人の言葉数の少ない、ほんのちょっとしたやりとり。
胸を穿つでしょう。
100点。
- 感想投稿日 : 2014年6月11日
- 読了日 : 2014年11月18日
- 本棚登録日 : 2014年6月11日
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