「醜悪な目に遭う」ことが物語上のスパイスとして使われる..
●本の概要・感想
石田衣良の人気シリーズの第2作目。池袋の果物屋の息子でありながら、便利屋として仲間たちに頼られる主人公・マコト。犯罪まがいのトラブルに取り組み、傷つきながら、解決に導いていく。
「ワルっぽい世界」が観れるのはこの作品のイイところ。マジメに生きてきた者にとって、触れられない世界や人間模様は魅力的だ。ただ、気になるのがあくまで「邪悪な」「胸糞悪い」コトがただの一コンテンツとして描かれていること。誰かが酷い目にあうことに、意味はない。その描き方が苦手だ。残酷な描写は物語を進め、各エピソードの問題を解決するまの一風景でしかないことに、違和感を持った。例えば、マコトが、拉致強姦暴行を受けた仲間の女性に応対するシーン。読んでいて、「現実だったらそのように接することができるだろうか?」と疑問がぬぐえなかった。その醜悪な体験が、あくまでもスパイス的に扱われることに、私自身は「入りこめない」と感じてしまうことが多かった。
本作のように「裏社会の人々」を描く作品として、私自身が読んだことがあるのに「ウシジマくん」がある。あれももちろん残酷なのだが、「醜悪さ」の取り扱いが中心にあるのだと、本作の対比で気づいた。物語が「因果応報」のように進むので、ひどい目にあうヤツがいても「まぁ、こいつなら仕方ねえか」と思わせられる。あくまで安全地帯から、ダークな社会の部分を観て面白がることができる。各々の登場人物が持つ「ダメさ」がゆえに「残酷な目に合う」。これが、ウシジマくんが万人に広がった理由なのだろうなぁ、と思った。一方で、本作の残酷さは理不尽だし、物語の進行に必要ということもない。ただ、ひどい奴らが出てくることで、物語を「ダークっぽく、裏社会っぽく」しているだけのように感じる。本作の物語をドライブさせる仕掛けはミステリーチックだし、「醜悪な奴がひどい目にあう」という進み方はしない。一章ごとのプロットは面白いと思うのだが、ライトに強姦とかストーカーを扱う物語は、苦手だ。
- 感想投稿日 : 2020年4月12日
- 読了日 : 2020年4月12日
- 本棚登録日 : 2020年2月24日
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