アメリカ彦蔵 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2001年7月30日発売)
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感想 : 33
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江戸時代、鎖国政策により外洋航海用の船作りを禁止させた日本の商船は、台風等により膨大な漂流民を生み出した。それまでは餓死していた漂流民も幕末頃になると鯨の油を求めて日本近海に来るようになっていた米国捕鯨船に助けられることが増え、そこから日本漂流民と米国人との様々なドラマが生まれたわけだが、このアメリカ彦蔵がそのドラマの最大のもののような気がする。

10代で漂流民として米国に行き、クリスチャンとなり、米国に帰化し、清国に渡り、ついに日本に帰り、日本で初の新聞を創刊しつつも、幕末の動乱の中で長州への砲撃をアメリカ船から見つけ、尊皇攘夷の志士達に命をつけねらわれる日々。。とにかく数奇すぎて、こんな日本人がいたのかーとビックリする。そもそも歴代の大統領と三代にわたりホワイトハウスで会見をしたという日本人は、現代においてもなお彦蔵以外でいるんだろうか?しかもそのうちの一人はリンカーンだし。。

いやあ、たまたま漂流でここまで人生が変ってしまうんだから、本当にすごい。

この作品には彦蔵以外にも多数の日本人漂流民が登場し、あるものは帰国でき、あるものは鎖国政策によって清や米国に永住せざるを得なかった。いずれも故郷忘れがたく望郷の念を抱えたまま人生を過ごしていく切なさを感じる。いまは、24時間あればどこにでもいけてしまう時代だが、気持ちはよくわかり感じ入ってしまう作品でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史小説
感想投稿日 : 2014年4月20日
読了日 : 2014年4月20日
本棚登録日 : 2014年4月20日

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コメント 1件

hatchonさんのコメント
2014/04/20

僕もこれを読んで、いろいろと考えさせられました。躍動感あふれる冒険譚っぽい前半のワクワク感。それに比して、終盤、和漢の基礎学問習得後、西欧に送り込まれた官費留学生たちの帰国後の、急激な彦蔵の存在感低下のくだりは、組織や社会の成長段階において必要とされる人材の移ろいを再認識させられ、自分はどんな適性で、何を成し遂げたいのかをよく自覚して生きることの大事さみたいなのを考えさせられたりもしました。

どんなに歴史ある共同体においても、常に非エスタブリッシュメントたる彦蔵タイプに活躍の場を提供することが、多様でより豊かな将来につながる気がします。

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