本書は、無限ともいえるビッグデータではなく、身近なリトルデータの分析の可能性について、著者自身が扱った事例を交えながら説明している。一読してみて、やはり分析の核心は、仮説の設定と変数化につきると思った。どのデータ使い、どのような知見と価値を得るかを熟考することが重要だ。加えて、その価値を踏まえ何をすべきか考え、実行に移すことが大前提となっている。これが学術研究と実務上の企画の違いなのだろう。
扱われている事例はほとんどが企業だ。大学経営に直接直ちに応用は難しいが、データに依拠したマーケティングの考え方は参考になる、というより明らかな隔たりがあると感じた。近年の高等教育政策・大学経営の文脈では、IRの重要性が指摘される。どちらかというと、設置者を問わずその公共性に鑑み、アカウンタビリティの果たすための情報公開の延長線上で、機関内で情報を整理し、公開することが促進されている。もちろん、一部の先進的な大学では入学者選抜にその情報を活用している。他方、企業経営の文脈では、競合他社と差別化を図り、少しでも優位となるような行動様式を重視している。この本もその解説となっている。これら2つの文脈には、データ解析に対する基本的な動機の違いがあるようだ。公的な法人と私企業の違い以上に、組織経営へのアグレッシブさの有無ともいえるかもしれない。
商業化する大学やアカデミックキャピタリズムの流れは、アメリカの高等教育システムの影響を受け続ける日本にも到来していることは明らかだ。とすれば、本書のようなマーケティングの手法を大学経営に取り入れずに済むと言いきれない。一部の大学は既にプランニングセクションにこの手の仕事をさせているはずだ。
多くの大学職員は、ある大学の志願者増減の規定要因を確実に把握したいはずである。しかし、それは明確でない。本書は「需要はあいまいな世界」(P.25)であり、「無数に存在する原因が組みあわさった結果」(同)かと問いかける。需要を増やすために、既存の顧客データをセグメント化するところから出発している。これは大学経営にも適用できるはずだ。分析の枠組みはマトリクス表ないしクロス表となっている。消費者の動機、感情、ニーズに基づきグループ化・類型化することが先決とのことだ。意外に商品購入の際合理的判断をしていないとも書かれている。「思考」と「行動」に先だって「感情」(P.135)があるというわけだ。
類型化といえばクラスター分析(P.114)だ。個人的には修論でこれを使うので“手で”覚えていくことにする。テキストデータの分析(P.129)も同様。
マーケティング予算策定の15のアプローチ(P.185)は特に興味深く読んだ。1.直感と経験則、2.これまでの継続、3.売上額の一定割合、4.払えるだけの額、5.昨年度の利益の残り、6.粗利の一定割合、7.売上予測の一定割合、8.単位売上あたりの一定額、9.顧客/消費者一人あたりの一定額、10.競合他社の予算に合わせる、11.ブランドの市場シェアと「話題のシェア」を一致させる、12.限界収益、13.タスクアプローチ(要計量経済学)、14.モデリング、15.メディア影響力テストの15個だ。一大学が予算編成する際、これらのうち、どれを使っているだろうか。多くは1ないし2だろう。バジェッティングとプランニングは表裏一体だということがここからもわかる。
ウェブ分析のツールとしてグーグルアナリティクス(P.253)が紹介されている。
http://www.google.com/intl/ja_jp/analytics/index.html
P.336のマーケティングの専門化も非常に刺激的だ。以下のように専門分化している。
ビジネスプランニング
・予算設定と配分
・ビジネスケース作成
・シナリオプランニング
オンラインメディア分析
・オンライン行動ターゲティング
・ソーシャルメディア分析
・オンラインメディア分析
・検索分析
計量経済学モデル
・キャンペーンパフォーマンス測定
・マーケティングミックス測定
・メディアミックスのモデル化
360度評価とレポーティング
・パフォーマンス報告
・ダッシュボード
ウェブ分析
・ウェブサイト報告
・テストと最適化
ターゲティング
・セグメント化
・予測モデル
定量的リサーチ
・追跡調査
・オンラインリサーチ
- 感想投稿日 : 2013年5月7日
- 読了日 : 2013年5月7日
- 本棚登録日 : 2013年5月4日
みんなの感想をみる