宴のあと (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1969年7月22日発売)
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本棚登録 : 1860
感想 : 168
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読後に“満腹感”を催すような「三島由紀夫の文章」で、昭和30年代前半辺りの世界で繰り広げられる、少し年嵩な男女の愛憎と「政治」とが描かれる訳だ。
三島由紀夫は、実際に起こった事件等を参考に、事件関係者を“作中人物”として練り上げ、“作中世界”を巧みに組み上げ、あの「三島由紀夫の文章」で作品を創ったという例が多く在る作家だ。『宴のあと』に関しても、作品が登場した頃には「同時代」な、「タイムリー」な話題が含まれていたということなのかもしれない。が、現在の時点でこれを読んでも「のめり込んで暴走する女と、その女に付いて行けない、御し難いものを感じてしまう男」という、或いは演劇でも視ているような気にさえなる物語である。正しく“作品”で、“裁判沙汰”の中で「何がどういうように問題になったのか??」と不思議な気分にさえなってしまう。
『宴のあと』は、流れが演劇を思わせる―『戦後日記』に観劇や映画鑑賞をした話題が幾度も出て来る。意識するしないを問わず、三島由紀夫は自作の構成の中で自然と「演劇のような」感じで物語を綴っていたのであろう…因みに三島由紀夫には戯曲作品も在る…―のだが、読者に示される作中世界というのは、何か鮮やかな色彩の情景写真が随時提示されているかのようである。そして人物の、ことにかづの描写は「丁寧に女性モデルを撮るポートレート写真」に写っているモノを「言葉だけで伝えようとしている?」かのようである。正に「鮮やかな画が浮かぶ」というような感で、作中世界に引き込まれた…
読後に何となく思ったが…本作は作中の“時代”を少し変えて翻案し、テレビドラマか何かにでも仕立ててしまうことさえ適ってしまうような気もした。正しく、少なくとも文庫本で「第77刷」と半世紀も、作品の初登場時は更に以前だが、永く読み継がれた“古典”である。本作を読み終え、やや大きな満足感に包まれている…

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 三島由紀夫 作品
感想投稿日 : 2019年9月21日
読了日 : 2019年9月21日
本棚登録日 : 2019年9月21日

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