自由からの逃走 新版

  • 東京創元社 (1952年1月1日発売)
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ドイツの大衆は自発的にファシズムを欲した。ファシズムによって欺かれたのではない。ヴィルヘルム・ライヒReich『ファシズムの大衆心理』1933

産業社会で合理化が進むと、高度な専門家が必要になる。限られた少数のエリート(政治家・官僚・技術者)に知識・能力が集中していく。一方、産業社会では大衆が政治に参与するようになっていく。大衆は知識・能力を持たず、エリートと大衆の距離は大きくなる。大衆(平均的な普通人)はエリートに指導されることを望むようになり、指導されることに慣れていく。カール・マンハイム『変革期における人間と社会』1935

ドイツは第一次大戦の敗北で、皇帝は逃げ出し、宗教は力を失った。旧来の権威が力を失い、自由なワイマール体制になった。しかし拠って立つものがない。下層中産階級の人々は何が正しく、何が悪いのか分からない。無力感、不安、孤立感に苛まれる。自由はかえって心理的な重荷となった。何かにすがりたい。そこにヒトラーが現れた。ナチズムこそが権威であると示した。権威なき社会がヒトラーを生んだ(cf.アーレント)。▼ドイツで高度に資本主義が発展した。すると労働者と資本家の対立が激化して、社会主義革命が起きるはずだった。しかし労働者は革命に立ち上がらず、独裁者を支持した。これは労働者の内面にある権威に依存する傾向のせいだ。▼権威に依存し、独裁者や体制に服従する一方、弱者には強気で振る舞う。意識の上では自由や平等を重んじながら、実際には権威にたいして服従し、弱者には抑圧的な態度をとる。▼支配されたい願望のマゾヒストは自分がちっぽけだという感覚をもち、孤独感を感じており、権威に従うことで自分は権威の一部だと思い込み、孤独を癒している。支配したい願望のサディストは孤独に感じており、支配して苦しめる相手を得ることで孤独を癒している。こうした性格傾向は家族での社会化によって再生産される。エーリヒ・フロムFromm『自由からの逃走』1941

近代の理性は自然や人間を支配するための「道具」として発展してきた。利益を最大化するため。人を効率的に殺すため。物事を合理的に考えてばかりいると、複雑で多様な自然を簡略化して一面的に見てしまう。人間がもつ感情や欲望を軽視してしまう。それがナチスのような暴力を生む。理性の中に暴力の契機がある。野蛮を克服するための啓蒙が野蛮を生む契機をその内に含んでいる。▼人間の衝動・欲望(内なる自然)と理性は互いに対立するが、うまく統合することでより高次のものへ。マックス・ホルクハイマー&テオドール・アドルノHorkheimer & Adorno『啓蒙の弁証法』1947

個人の内面にある権威主義的な傾向を測定する尺度。反民主主義的な宣伝に流されやすいかどうかの尺度。ファシズム尺度。F尺度。伝統を重んじ、権威に対しては無条件に服従し、伝統的な価値に反するものを攻撃・排斥する。好戦的、迷信や固定観念、人種的な偏見を持ちやすく、性的抑圧が強いかどうかの尺度。▼伝統に対する無批判の同調・権威への非合理的な従順・弱者への攻撃・理想主義に対するシニシズム。▼幼児期に親から厳格なしつけを受けると権威主義的になりやすい。親が怒りっぽく、寛容でなく、家庭の中に支配と従属の関係がある場合。▼民主的パーソナリティ。自発的。新しい事態にすぐに対応できる。責任感が強い。自分の使命が分かっている。テオドール・アドルノAdorno『権威主義的パーソナリティ』1950
※ファシズム尺度(F尺度)。エスノセントリズム尺度(E尺度)

同じ社会的・文化的な条件におかれた個人は共通の性格特性をもつようになる。階級・職業・地域。アレックス・インケルスInkeles ※国民性、社会調査

近代社会では制度化された宗教(教団)は力を弱めた。しかし、人々は何らかの信念体系がないと生きていけない。人々はそれぞれ私的に生の意味を模索し始めた。神秘体験。占い。超能力。超常現象。トーマス・ルックマンLuckmann『見えない宗教』1967

近代化以前は宗教が社会的秩序を意味づけていたが、近代以降は宗教が力を失い、私的なものに変わった。ピーター・バーガー『聖なる天蓋』1967

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カテゴリ: 社会学・政治学
感想投稿日 : 2021年7月19日
本棚登録日 : 2021年6月30日

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