家守綺譚 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2006年9月28日発売)
4.14
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本棚登録 : 8955
感想 : 1102
5

私にとって、面白い本とは大雑把に分けて二種。
いわく、「読み始めたが最後、ページをめくる手が止まらない」
「続きが気になって閉じることができない」
等々のいわゆる、【イッキ読み】系。
もうひとつは、「この世界にいつまでも居たい」
「この際ストーリーなんてどうでも良いから(?)、終わって欲しくない」
【浸っていたい】系。
本書、家守綺譚は、圧倒的に後者です。

本書を知ったキッカケは、やはりブグログ。
この本を本棚に入れて紹介してくれた方々に感謝します。
表紙も良いですねー。
このスズメ!
スズメ好きの私にはたまりません。
本気で、この表紙に使われている版画を購入しようか、かなり考えました。

時は、作中に先年トルコのエルトゥールル号の大惨事があり……と、記述があるので明治の頃と思われます。
舞台は……おそらく日本のどこかでしょう。
話は、主人公の「私」こと、綿貫征四郎が、高校時代に亡くなった親友「高堂」の家に住んで、「家守」をするところから始まります。
河童、人魚、小鬼、狸、桜鬼(はなおに)等々が当たり前に現れ、周囲もそれを当然と受け止める世界。
なんと言えば良いのか。
そういった羨ましい世界の「私」によるエッセイ。
なんとも言えず雰囲気が良い!
そして、文がまた良い!

ーーサルスベリのやつが、おまえに懸想している。
ーー木に惚れられたのは初めてだ。
ーー木に、は余計だろう。惚れられたのは初めてだ、だけで十分だろう。
高堂は生前と変わらぬ口調でからかった。

私をいつになく破滅的な豪気な気分にした。財布を取ると、外へ出た。肉屋へ行くのだ。ゴロー(犬)の帰還を祝うのである。
百足もマムシも何するものぞ。
ゴローが帰ってきたのだ。

良い!
わずか200ページにも満たない幻想的エッセイである。
読み終えたくなかったので、できる限り抵抗した。
我慢して読むのは1日に1エッセイまでとし、それでも左手の親指で感じる残りページが乏しくなると、前に戻って終わらせまいとした。
それでも、終わりは来てしまうものである。
わずか1ヶ月であったが、楽しい世界を堪能できた。

ああ、主人公の綿貫征四郎が羨ましい。
心の底から羨ましい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ファンタジー
感想投稿日 : 2021年10月24日
読了日 : 2021年10月24日
本棚登録日 : 2021年10月24日

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