わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫 イ 1-6)

  • 早川書房 (2008年8月25日発売)
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感想 : 1808
4

ノーベル文学賞作家。
ということで、美しいが難解で読みづらい文章と格闘するのだろうなと覚悟して本を開いたが、完全に予想外。
最初から最後まで、主人公の一人語りで話が進みます。
スラスラ読めます。
 
臓器移植のためだけに作り出された子供たちの話。
不思議でした。
まるでごく普通のどこにでもありそうな寄宿学校の話にしか思えないのです。
子供たちは未来を悲観したり、憤ったりしません。
運命を呪いません。
逃亡を企てたり、反抗しようともしません。
でも、普通の子供とおなじように豊かな感情を、人間性を持っています。
そのことに多くのページが割かれています。
将来、臓器提供をさせられて、殺されることも理解しているのに、だれもそのことを口にしません。
従順です。
教育のたまものでしょうか。
なぜ逃げないのか。
逃げようと思えば可能な大人になり、一人で車を運転できるようになっても逃げません。
でも、やはり嫌なのです。
提供までの期間の延長を模索するぐらいですから、臓器を提供して死ぬのはやはり嫌なのでしょう。
でも、なにも際立った行動は起こしません。
唯々諾々と子供たちは数度の提供を行って、死んでいきます。
「使命を終えた」という認識で。
 
作品にアクションはありません。
二転三転はなく、どんでん返しもありません。
ハッピーエンドは望むべくもありません。
淡々とした悲しみだけがあります。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年7月19日
読了日 : 2021年7月19日
本棚登録日 : 2021年7月19日

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