蒲団・重右衛門の最後 (新潮文庫)

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  • 新潮社 (1952年3月18日発売)
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この私小説は、田山花袋自身の身に起こった出来事を告白した自伝の様なものだったので、花袋がどういう人物だったのかや、花袋自身の当時の感情などが非常に近く感じられるものだったと感じた。
この小説の思想性に関して、最後のクライマックス場面で(「女のなつかしい油の匂いと汗のにおいとが言いも知らず時雄の胸をときめかした。〜心のゆくばかりなつかしい女の匂いを嗅いだ。」一一〇頁引用)とあるが、女(芳子)の油と汗、そして匂いと、においについて文字の使い方や表現の仕方が違うことに気づきその作者の思想性は何なのかを考えた。
油と汗は本質的には同じで体内から排出されるものであるが、油といえば体臭の匂いなどが想像出来るまた、汗は油よりも体から出るものになるのでその女の身体から出たものを素肌で蒲団に触れて感じ取る事によって、少しでもその女に対しての感情や想いなどが思い出されたり、そこに居るはずの無い女(芳子)がいる様に感じ取られるのでは無いのかなと考えた。また、「匂い」と「におい」にしても、良いに匂いの「におい」と、例え少し臭くても愛している人の「匂い」は愛おしく思えたりすると考えたのである。したがって、筆者は故意に「匂い」と「におい」で書き方を変えているのではないのかと考えた。さらにまた、時雄自身が女の蒲団を引き出して匂いを嗅ぐ時に女の匂いを分析する程の敏感な神経(女を愛するあまりの)が非常に備わっていたのだと感じる。このことから女に対しての花袋のもの凄く深い愛がこの作品に強くあらわれていたと感じる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年11月24日
読了日 : 2020年11月23日
本棚登録日 : 2020年11月23日

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