アトランティスのこころ 下巻 (新潮文庫 キ 3-26)

  • 新潮社 (2002年4月1日発売)
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本棚登録 : 314
感想 : 17
5

少し不思議な出会いと別れの少年時代が終わりを告げ、語り部を変えて舞台は狂騒と狂乱の大学生活へと舞台を変える。

当初はその独特な構成に面食らったものの、遠き日に覗き込んだガラス玉のようなきらめきの少年時代とはうってかわって、キング節で語られるピートの愚かしく無軌道な大学生活はまさに青春という感じでとてもいい。特に作中で印象的なトランプゲーム「ハーツ」はパソコンのゲームの印象が強いものの、大学生御用達の麻雀のような中毒性があり、それにのめり込んで単位を取りこぼしていくのはひしひしと伝わるものがあった。

超自然的なホラー要素は上巻と比較すると極めて薄く、現実のベトナム戦争に巻き込まれて否応なしに青春が消費され変わり果てていく様は、あらすじにある通りの残酷な時の呪いそのものであり、現実はそう簡単にハッピーエンドを迎えない。登場人物たち全員が望んだ未来になり、伴侶を得て、幸福に死ぬのは物語の世界の中だけで、キングの作品はわりと末路が悲惨な登場人物も多く、この作品も例外ではない。しかしながら歳を重ねた今読むとそれは切実なリアルであり、だからこそ「物語」があり「主人公」であった時代への郷愁に胸を焦がすのだ。

そんな魔法が解けた後に訪れるささやかな結末は感涙必死であり、それぞれの時代とそれぞれの物語が細く一本の糸となってより合わさる様は、ウェルメイドでありながら用意された必然性をあまり感じず、むしろ偶然性の賜であるからこそ、良きにしろ悪しきにしろ己が人生を肯定できるのであろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年11月29日
読了日 : 2022年11月29日
本棚登録日 : 2022年11月29日

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