幽霊たち (新潮文庫)

  • 新潮社 (1995年3月1日発売)
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変装したホワイトと名乗る男からブラックという男の見張りを頼まれた私立探偵ブルーの物語。ブラックの監視をするだけの話で、本当にそれだけというのがこの物語のミソである。何も語られず、物語は起こらない。起こらない物語をあれこれと想像し、理由を探し、必死に名付けようとして次第にドツボにはまっていく様はまさに狂気の一語である。そこに浮かび上がるのは人と人との人間関係で、相互認識がなければ人は幽霊と同じである。関わるからこそ交流が生まれ、そこに物語は生まれるのだ。見られていることを意識することによって存在できるというのはまさに真理で、監視対象と自身との境が曖昧になっていく感じは面白かった。現実世界との接点を失った瞬間に現実は消失し、物語の虚構の世界へと閉じ込められる。それをある程度自覚して、脱出しようとする能動性が前衛かつ異色たる所以なのだろう。途中までは主人公と同じように理由を探し結末をあれこれ想像していたが、その行為そのものがこの作品の術中にハマったことの証左である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 純文学
感想投稿日 : 2019年5月29日
読了日 : 2017年2月19日
本棚登録日 : 2019年5月29日

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