片手の郵便配達人

  • みすず書房 (2015年12月22日発売)
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感想 : 29
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見事に「静謐な文学の内に秘められた戦争の不条理さを訴える文学」だと感銘を覚えた。古今東西問わず、声高に訴える文学はあまたあるが女性でありながら「恒久平和」を死ぬまで己が勤めと思い続けている魂に打たれる。

フィクション故、万人に受け入れられるような普遍性のあるストーリー・・心現れるような美しい文体、アダルト文学と言ってもいいような平易な文章が好ましい。
17歳という人生の出発点で受けたダメージに挫けることなく立ち上がり、すがる母の愛も失い、最後には愛するひとすら去って行った彼。余りにもというような惨い運命の選択肢すら、受け入れようもない出来事。
パウゼヴァングはここまで厳しい事実を彼につきつけることにより、戦争の惨さ、降り注ぐ雨つぶの如きものとして後世に伝えたかったのだろうか。

郵便配達人と言えば『イル・ポスティーノ』の彼、中国映画の「山の郵便配達夫」を思い出す。どの人物も「定点観測」に立つ自身の任務を果たすことで人々の日常を見つめ、伝えてくれている。

70年かけて伝えてくれている筆者の熱い言葉に私は首をたれた~日本も独と同じように周辺諸国に非礼な数々をなして来た。その事実とどう向き合ってきたのでしょうかと・・向き合ってきていないと、私は思います。

これが真実の姿だと。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年11月8日
読了日 : 2021年11月8日
本棚登録日 : 2021年11月8日

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