「私は今でもその丘を知っている。その最初の場面ら思い浮かべることができる。冷たい駅の空気、トランクの革の感触、孤独と不安にうずく私の心臓の鼓動を。なぜなら、それは私の物語だからだ。私がなぜトランクを失い、どうやってそれを取り戻したかという物語だからである。」
ー本文より引用
文句なしに面白かった。
魅惑的で不思議な導入、魅力的なキャラクター、展開、舞台設定、イベント…面白い要素を取り上げ始めたらキリがない。
さらに巻末の解説を読むと、これ単体で読んでも面白いが、これと合わせて作中に出てきた本のタイトルの本を合わせて読むことでさらに複雑な楽しみ方ができるというではないか。すごい。すごいぞ恩田陸ワールド。
まだ作品を読むのは数作品目だが、恩田陸作品をどんどん読んでいきたいと思わされた。
肝心のあらすじ。
理瀬という少女が主人公で、彼女は右も左も分からないまま、北海道の奥地の湿原が広がる閉ざされた学園に入学することになる。
その学園には様々な事情を抱えたお金持ちの子どもたちが通っている。
学園の潤沢な環境を利用して才能を伸ばすために入学する子どもたち、様々な事情からこの監獄のような学園に入ることを余儀なくされた子どもたち…
この学園では互いがあからさまに素性を明かさないよう配慮(?)して、苗字では呼び合わない。ファーストネームしか互いに知らない状態だ。
そしてファミリーという縦割り制のグループに所属する必要がある。
その学園は三月に入学・卒業するのが慣わしなのだが、理瀬は異例の二月の編入生だった。
飛び交う理瀬に対する憶測、噂話。
類稀なる美貌と頭脳を持ち合わせる校長。
校長に気に入られることでやっかみを買うことも。
そして次々と起こる事件、明かされ発生する謎。理瀬は翻弄されていく。その翻弄の先に待ち受ける結末は。
あらすじがうまく書けていないので面白さが伝わるか分からないが、500ページ近くありながらもスルスルと読めてしまう面白さ。ぜひ読んでほしい。
章ごとに挟まれる扉絵も美しい。
読んで良かった。極上のクローズド学園ミステリーだ。
- 感想投稿日 : 2023年7月5日
- 読了日 : 2023年7月5日
- 本棚登録日 : 2023年7月5日
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