天切り松 闇がたり 1 闇の花道 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2002年6月20日発売)
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雑居房の金網にぎっしりと顔を並べる留置人と看守と同じく私も天切り松の闇がたりの一言も聞き逃すまいと聞き耳を立てた

江戸っ子の小気味良い語り口が何とも心地よい

「金輪際、桜田門たァ縁を切る。殿下閣下もかまいやしねえ、盗られて困らぬ世間のお宝、一切合財ちょうだいしようじゃねえか」

目もくらむほどの果てもねえ花道を、走り出す抜弁天、目細の安とその手下五人

事業家のような威風と華族のような品位の目細の安こと安吉親分
大兄イにふさわしい貫禄で、身なりも面構えも明治の無頼漢そのものの若頭の寅弥兄ィ
開襟シャツに生成りのズボンをはいた勤め人ふうの栄治兄ィ、近所へのふれこみは「洒落者の若い大工」だそうな
長い羽織に麻の袴、時代遅れの壮士風、「書生常」こと常兄ィ
藤色の絽縮緬の夏羽織、レェスの日傘をくるくる回すあだな姿のおこん姉さん
「よっ、春駒屋」と声をかけたくなるほどのかっこよさ
いやいや、盗人に感動しちゃダメなのはわかってはいるけれど、まるで講談を聞いているような小気味よさ

弱きを助けて、強きを挫くネズミ小僧のような6人だがそれぞれにここに至るまでの物語がある

胸のすく愉快な気持ちで読み進めたが、最後は松蔵の姉・白縫花魁の冥福を祈るしんみりとした気持ちで読み終えた

プリズンホテルに続き、感想を残すための4〜5年ぶりの再読だったが、何度読んでもおもしろい
浅田次郎の描くこんな世界が好きだ

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年1月6日
読了日 : 2024年1月6日
本棚登録日 : 2019年4月23日

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