人間の条件 (ちくま学芸文庫 ア-7-1)

  • 筑摩書房 (1994年10月5日発売)
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読んでいて一番驚いたのは、あまりにもページが進まないことだった。kindle版を購入し、右下に%を表示させていたのだが、いくら読んでも%の値が変わらない。まるで果てしなく高い山を登っているような気持ちになりながら、この本を読み進めた。しかし読み終わった今思うのは、「こんなに濃い内容で、かつこんな量の良質な文章を1500円程度で読めるなんて物凄く良い買い物だったな」ということだ。

正直、読む前は「物凄く偉そうな哲学書なのかもしれない」とか、「押し付けがましい文章かもしれない」とか、この本に対してあまり良いイメージを持っていなかった。タイトルが「人間の条件」なんていうあまりにも誇大なものだからだ。しかし実際読んでみると、その中には緻密で、直向きな哲学的思考と、それに基づいた分析、考えが一生懸命並べられている。その文章全てを丸呑みできるわけでは勿論ないけれど、私はその文章を読みながら普段考えないことを考えたり、ハッとさせられたりした。社会に対する目、自分の生に対する目が読む前と後で変わった気すらした。素晴らしい文章であった(とはいえ、最初の最初は何を意図した文章かわからずかなり読むのに苦心した。宇宙開発、何の話だ?何かを暗示する系の文章がずっと続くのか?と思ったが、読み終わってから何が言いたいかやっとわかった。辛くなったら最初は読み飛ばせばいいと思う。ちゃんとロジカルに、ストレートに伝えてくれるパートが後に続くので。)。

この本は教訓的で、私達が一度立ち止まって世界を客観視する機会を与えてくれる。同時に、今の考え方、常識、社会のあり方が、「基から」あったものでなければ、「そうでなくてはならない」ものでもないということを気付かせてくれる。全ては変遷の末にできたもので、そして変遷の過程にある。変わりゆくものであることと、そこに道理があることを伝えてくれる。それだけで救われるものもあるのではないか、と個人的には思う。読む価値はある。そして時代遅れでもない、と私は思う。むしろ今の時代について考えるに相応しい本である。是非、気になっている人がいたら読んで欲しい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年5月9日
読了日 : 2022年5月3日
本棚登録日 : 2022年5月3日

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