わが子に会えない 離婚後に漂流する父親たち

著者 :
  • PHP研究所 (2017年1月19日発売)
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感想 : 9
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 近年「痴漢冤罪」の議論が賑やかであるが、「DV冤罪」もまた根深いものがある。

 自身も離婚により子の親権を失った著者が、同様に子供を「奪われた」男親へのインタビューをまとめた書。
 男親からの証言であり、女性側からの聞き取りはない。それゆえに相当に偏って脚色された部分もあるだろう。ポジショントークの可能性を多分に飲み込んだ上で、それでも引き裂かれる子供の心を思うと、もう少しどうにかならないか、と願うこともある。
 もちろん父親側に子供を奪われ、愛する子供に会えない女性というのも少なからずいることだろう。時代劇や明治、大正、昭和初期頃までのドラマでも家督継承のため子供(特に男児)を奪われて追い出される女性というのは多く描かれてきた。現状の父親不遇はその反動なのかもしれない。

 本書の事例を見ると、母親から行政や警察へDV被害を訴えると、これは相当スピーディーに受理され、救済活動のNPOや人権派弁護士の庇護下に入る。父親へは接近禁止命令などが出され、学校や保育園へも「父親が来るかもしれないが拒否するように」と通知される。
 初動としてはそうした「無条件での訴えの受理」は緊急避難的にやむをえない、妥当な対応と言えるかもしれないが、裁判が始まり、事実関係を整理しようとしても母親の権利が強すぎて父親の言い分が全く通らない、というのはどうにもバランスを欠いているような印象がある。「DV加害者(とされる人)の弁護は引き受けない」という弁護士事務所も少なくないという。おそらく裁判での勝率が著しく悪いからだろう。誰だって負け戦はしたくない。商売なら尚更である。
 本書の父親側の証言が事実だとすれば、問題があるのはむしろ母親側であると思われる事例もある(不倫の末に家出した事例とか、宗教に入れあげて子供に祈祷を強要している事例とか、本書の本文では触れられていないが母親が子供を殺してしまう事例もあった)。それでも裁判所は、行政は、父親の味方をしない。

 一方でどう言い繕ってもこれはこの父親の言い分は通らないだろうというインタビューもある。
 怒声も含めた暴力で妻子を支配してきた父親、徹夜で残業飲み会、朝帰りどころか数日帰ってこない「モーレツ社員」、いざ離婚を切り出されてから家族を、子供を愛していると言ったって、覆水は盆に帰らない(そもそもこの故事成句自体が離婚にまつわる話だったか。ここで離婚を切り出されるのは女性の方だが)。匿名とはいえよく公開前提で応じたなあという感もある。
 なぜ結婚してしまったのか。いやそんなの言われても困るでしょう。一般に交際期間は婚姻期間よりも短い。しかも交際期間中はお互いが自分をよく見せるために猫をかぶるでしょう。あるいはあばたもえくぼ、恋は盲目。悪癖やすれ違いも結婚すれば、子供が生まれればきっと直る、人はなぜかそう錯覚する。それを完全に回避するなら、最初から結婚しない、性交しない、これしかない。現代の若者の非婚率、非性交渉率にそうした要因も少なからず影響しているだろう。悲しむくらいならば愛などいらぬとサウザー様もいうてはる。

 本件の根深さには弁護士や支援組織の存在もある。弁護士からすれば訴訟は飯の種だし、先述の通り女性側につけばかなりの確率で勝利できる。支援組織も「救済」した母親の数が成績になり、補助金等に関わるので積極的に「救済」しようとする。子ども自身が父親を選びたがっても(そもそも選ばなければならないこと自体も悲しいことであるが)、それを許さない。
 もちろん父親が本当にDVなどを行っていてもともと子供からも嫌悪されていたというのならば仕方がないが、強制的に母親の庇護下に置かれた場合、子供は母親に頼らなければ生きていけないので、思っていないことでも口にする。周囲の人間や調査官に対して「パパは嫌い。会いたくない」などと言わされる。逆に会いたいなどといえば怒られる。嫌い嫌いと言わされているうちにいつしか本当に嫌いになってしまう。これは趣味を否定され続けて諦めざるを得なくなるなんてこともあるので離婚案件に限らないのだが、それでも肉親に対して嫌悪を
強要されるのは大変な苦痛だろう。
 そうした「離婚指南」を弁護士や支援組織が行っていると本書では触れている。幸いにも誤解が解けて家族を再会できた事例も紹介されているが、こうした連中が本来別れずに済んだ家庭をいくつ壊してきたのだろう。

 本書の事例の多くは「母親が子供を連れて出て行った」ものであるが、「先に母親が出て行き、その後子供を連れていった」という事例もある。まず一人で出て行ったあと、DV等で訴え、受理されれば警察同伴で「合法的に連れ去って」いく。抵抗すれば余計に立場は悪くなる。手も足も出ない。本書では裁判や「子供を連れ去られた父親の支援組織」などで戦う父親も多い。それでも高すぎる壁に断念し、再会を諦める者、自らの命を絶つ者までいる。

 本書の内容とは離れるが、司法や警察含む行政はいつでも女性の味方かというと、強姦被害に関しては全くそうでもないらしい。レイプに遭ってもまともに対応してもらえない、それどころか更なる屈辱を味わうセカンドレイプも少なくない。「気の緩みが合ったのでは」「合意がなければ応じるわけがない」などと取り合ってもらえず、PTSDで仕事や学業を断念せざるを得ず、しかし加害者はのうのうと日々を暮らしている、そんなアンバランスはそこかしこにある。
 強姦等の要件を見直す改正案が今国会で審議されている。それでいくらかでも改善されるだろうか。
 ネットではあまり評判の芳しくない親子断絶防止法案であるが、本書で挙げられた「子供の意に沿わない親子断絶」の防止に役立つなら、一縷の望みはかけたい所である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ドキュメンタリー
感想投稿日 : 2017年6月14日
読了日 : 2017年6月14日
本棚登録日 : 2017年6月9日

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