ローマ人の物語 (26) 賢帝の世紀(下) (新潮文庫)

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  • 新潮社 (2006年8月29日発売)
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五賢帝時代と言われたその時代を表した最終章。賢帝とはローマ帝国の歴史全体を通しての評価だと思いますが、当然その時代に生きた市井の人々の評判も含まれます。ハドリアヌス帝は賢帝の一人ですが、その晩年は、今までの性格を現す「一貫していないことでは一貫していた」という好評価から、ただの「一貫していた」という老年期の普通の人の概念で欠点とされる性向で一貫してしてしまった…ようです。その理由のひとつとして、帝国の全域にわたって長年視察、巡行を続けた結果、肉体を酷使して健康を害したせいであることがあります。更に作者は、その要因をハドリアヌスは、やらねばならないことはすべてやった、という想いに由来していた…と分析しています。気配りを欠いた言動に国民から、冷笑を浴びたりしたエピソードに、ある程度社会に影響を及ぼす立場にある人の「老害」を感じました。現代の日本においても諸外国においても、その例はすぐ頭に思い浮かびます。しかし、この逆風に於いてハドリアヌスの死後、神格化を反対していた元老院の意向に次期皇帝のアントニヌスは、必死に抵抗し、彼の帝国再構築の偉業は歴史の闇に埋もれずにすんだのでした。
そのアントニヌス・ピウスの治世は、皇帝として新しいことは何もしないという時代だったのですが、それは否定的な意味ではなく、帝国全域を平穏な秩序が支配していた「幸福な時代」と言えます。人格者で美男、その上言動にはユーモアが漂っていたというのですから、本当に稀に見る人物だったようです。ハドリアヌスとアントニヌスの二人の時代は、ローマ帝国の礎となる安全の保証が実現され、平和の価値を実感できる国になっていました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 塩野七生
感想投稿日 : 2018年9月2日
読了日 : 2018年8月24日
本棚登録日 : 2018年9月2日

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