同シリーズの『城の生活』よりも『農村の生活』よりも圧倒的に読みやすく面白いのは、時代も場所も違えど同じ"都市"に住む身であるからだろうか。
フランスはシャンパーニュ地方の都市であるトロワにおける1250年とは、
馬のひづめの足音、ガチョウの鳴き声、夜明けとともに鳴り響く教会の鐘、
魚屋、肉屋、皮なめし屋とひどい臭いの店が立ち並ぶ一角、
商店の陳列台に並ぶ長靴、ベルト、財布、ナイフ、スプーン、ロザリオ。
といった『中世』と聞いて誰もが思い浮かべるファンタジーの世界であった。
そして本書には、そのファンタジーを具象化する詳細にあふれている。
夏市のためにバポームから古代ローマ時代にできた道をたどって南下してくるフランドル地方の毛織物隊商たち。
ブドウ酒のコップは隣の人と共用なので、コップに口をつける前に唇について油を拭き取る礼儀に従っていた裕福な市民たち。
「ゾウが恐れるのは竜とネズミだけ」といった自然史を後者のない学校で教えられる生徒たち。
記録に残されやすい裕福な貴族や修道士の生活にとどまらず、
例えば洗濯女の『シャツやテーブルクロス、ベッドリネンなどを木桶に入れ、木の灰と苛性ソーダを混ぜたものに浸け、叩き洗いをし、すすぎ、日光に干す』や、
乳母の『乳が足りなくなると、エンドウ豆、インゲン豆、牛乳で煮たオートミールを食べた』といった、
一体どこから探してきたのか検討もつかないほどの庶民の生活まで紹介される。
教科書通りの歴史の授業では、普通に暮らす人々にとっては異常でしかない事件のみしか学べないが、
その裏で営まれた何の変哲もない日常こそ、今に繋がる"歴史"と言えるのではないだろうか。
- 感想投稿日 : 2017年7月30日
- 読了日 : 2017年7月30日
- 本棚登録日 : 2017年7月30日
みんなの感想をみる