表題のわりに数式の一つも出てこないと思ったら、原題は[Arrival of the fittest. Solving Evolution's Greatest Puzzle.]直訳すれば『最適者の到来。進化の最大の謎を解く』。

"進化"のよくある説明として、キリンの首は目的を持って伸びたわけではなく、首が短いキリンが自然淘汰により絶滅しただけだと語られる。
では、なぜキリンの首は伸び始めたのか。自然淘汰は最適者の"生存"を説明できるかもしれないが、最適者の"到来"を説明することはできない。
その答えを一言でいってしまえば"偶然"なのであるが、その"偶然"とは、遺伝子の中立的な変異、エラーを許容する冗長構成、天文学的な組み合わせから正解にたどり着く近傍探索。といった十数億年かけてたどり着いた機構に支えられている。
その機構を解き明かすシステム生物学が本書の主題。

進化論は未だ多くの信仰で否定される事があるが、乱暴に言ってしまえば、神を信じるか、偶然を信じるかの違いでしかない。
この偶然がどのような機構によって支えられているのか、読書のみでその理解を深めようとすることは、反対派から見れば別の信仰心を高める行為にすぎないのかもしれないが、"仕組み"の理解はいつかどこかでその類似系を役立てる時が来るだろう。

2023年8月26日

読書状況 読み終わった [2023年8月26日]

『私たちが今も、これから先もおそらくずっと、行くことも、見ることも、検証することも、支配することもできない一連の並行宇宙(中略)これは科学なのだろうか?』

科学者でなくとも、この世に100%なんてものは存在しないと理解している人は多い。
しかし、そんな人でも日常生活で落とした物をした時に、量子世界の狭間に落ちたかもしれないなんてことは考えもしない。
では、その僅かな可能性であり、検証すらできない0.0000001%以下の世界を想像して仮説を構築することに、なんの意味があるのだろうか?

無限の遠くにある無限遠宇宙、次々と宇宙が誕生するインフレーション多宇宙、高次元に並列的に存在するブレーン多宇宙、ブレーンワールドが衝突と離散を繰り返し、空間でなく時間のなかで並行するサイクリック多宇宙。おびただしい数の形と大きさを備えた余剰の空間次元にもとづくランドスケープ多宇宙。

本書で語られる並行世界論は、どのバージョンにおいても自然界で実現することを立証した実験も観測もない。
そのせいか、ビッグバン、相対性理論、宇宙背景放射、ひも理論、量子ゆらぎなど、それほど難しい単語は出て来ないのに、読み進めるほどにわからなくなっていく。
そんなわからなさがピークに達する上巻の最後で、冒頭の問題提起がなされる。
並行宇宙論とは、わからないものを増やしつつけるだけの不毛な追求なのだろうか。下巻に続く。

2023年8月26日

読書状況 読み終わった [2023年8月26日]

第二次世界大戦の勝敗が逆転した世界の代名詞として使われることもある作品であるが、その設定自体は本作以前から存在するようで。だとすると本書の独創性はどこにあるのか。

確かに物語の中で登場人物たちがさらにその逆の世界(つまりは正史)を描いた小説を読み耽るという二重構造にフックはあったのだが、その設定が十全に活かされていたとは思えず。

そもそも本書は『結末のある物語』とは言い難く、あくまでそういう世界に生きる人達の一場面の切り取りでしかない。しかも状況をコントロールする側でなく、翻弄される側の人たちが『如何に困らされているか』を示すのみで爽快感はない。
さらには延々と続く人種差別思想描写には辟易するし、全ての判断を卜占に頼りすぎで感情移入するのも難しい。

本作が自分に合わなかったのは、時代性によるものだろうか。別の著作も試してみたい。

2023年8月26日

読書状況 読み終わった [2023年8月26日]

AD1500-AD1763の戦場の解説。
章立ては歩兵、騎兵、指揮と統率、攻囲戦、海戦と大雑把に分けた上で、代表的な戦場の概略を図解する。
基本的には前作までと同じ構成であるのだが、AD1500-AD1763は国家間戦争が本格化した時代であり、目まぐるしい状況の変化と合わせて技術的進歩の速さも実感できる。

歩兵:常備軍・小火器の登場による『槍と銃』戦術、その代表とも言えるスイス人傭兵部隊、ハプスブルクのランツクネヒト、スペインのテルシオ。
騎兵:銃火器による装甲騎兵の衰退。短銃騎兵の誕生。グスタフ・アドルフの三兵科連携、フリードリヒ大王の軽騎兵運用。
指揮と統率:ヴァレンシュタインと傭兵。傭兵軍から常備軍への移行。協調的な銃火器の利用を可能とするための階級規律と軍事教練を行う、マウリッツによる軍制改革。
攻囲戦:大砲による城壁の破壊と、その対抗としての星形要塞。
海戦:接近戦から遠距離戦へ。漕走軍船から帆走軍艦へ。

戦争技術の進化のみに焦点を当てるのであれば、他にもっと良い本があると言えてしまうのではあるが、戦場の用兵例を知りたいのであれば、読んで損することはないだろう。

2023年8月26日

読書状況 読み終わった [2023年8月26日]

なぜ国は間違いを認められないのか。
失政によって職を追われることはあっても生命が奪われるわけではない民主政であってすら、国家が誤謬を認めることは容易ではない。
国の間違いはあまりにも簡単に人の命を奪うが、その直視に耐えられる人間がいないせいか。
ベトナム戦争のように、現代の民主制国家において自国民の命が消費されている状況ですら、その撤回は困難だった。

この戦争の開戦前から、政策立案者は危険や障害、否定的な成り行きに気づいていないときはなかった。
秘密情報部は有能であったし、学識ある観察報告は着実に戦場から首都へ送られ、特別調査団が何度も派遣され、独自のルポルタージュも欠けていなかった。
統治者はそれらを知らなかったわけではないのに、ただただ政治的な慣性の法則に従い、証拠から結論を下すことを拒み、信じたい事のみを信じ、大穴に賭けて当然のように失敗する。

本書で語られる『愚行』は下巻のベトナム戦争に加え、上巻のカトリックの没落と大英帝国から見たアメリカ独立戦争の3篇であり、網羅的な研究とは言い難い。
しかし、本書で語られた愚行の本質は、2022年現在においても国を問わず発生している。

『反対の証拠を無視するのは、愚行の特徴となる自己欺瞞のもとである。現実を隠すことで、必要な努力の度合いを過小評価するからだ』
『ひとたび政策が決定され、実施されると、あとに続くすべての行為はそれを正当化する努力と化すのである。』
『武力は、合理的に計算された根拠にもとづき、「戦争を終らせる利点のほうが継続する利点より大き」くなるところまで、敵の意志と能力を変えるために用いられる。』

人類は歴史から学ぶことが出来ないのか。
それとも歴史から学んだ結果、未だ人類は滅亡していないのか。
愚行と歴史。地球上から消えるのはどちらが先だろうか。

2022年12月31日

読書状況 読み終わった [2022年12月31日]

初心者向けデザインHowtoマンガ本。
初心者が気をつけるべきデザインの4つの要点「整列・近接・強弱・反復」と、
改善を検討する際の12のチェックポイントが本書の全て。
あとはそれをわかりやすく伝えるためのマンガと事例。
30分程度で読めるので、スナック感覚で手にとってみても悪くないだろう。

2022年12月31日

読書状況 読み終わった [2022年12月31日]

自分の直感を100%信じられる人間はそうはいない。
だが気づいていないだけで、誰もが疑う余地すらなく直感を盲信して生きている。
その"直感"は、実は偏見まみれで、思慮浅く、偏屈で、騙されやすく、統計が理解できず、合理的でないとしたら…。
そんな人間という種の弱点とも言える"直感"の正体とは。
本書は、瞬時の判断を司る「速い思考」をシステム1、時間をかけて熟慮する「遅い思考」をシステム2として、システム1によって生じる思考の盲点を説明する。

題材としては、ハロー効果、認知的バイアス、プライミング効果、アンカリング効果、ブラックスワンなど。
どれも媒体を問わず語られることが多い脳の誤謬であるが、単なる雑学として通り過ぎて良いものではない。
例えば政策を決めるにあたり、どうしたってリスクの大小を正しく測定できず、過剰に反応する国民に対し、
それを無視して必要な資源配分を行うべきか、反応を抑えるためにリソースを費やすべきか。
全人類が本書を読んで自身を疑わない限り、こういった判断は常について回る。

自己に対してさえ、現在と過去で同一の合理的な判断を下せない人類は、如何にして幸福を追求できるのか。
自身のシステム1だけでなく、他者のシステム1とどう向き合うべきなのか。
下巻ではプロスペクト理論の考案者でもある筆者が、思考と経済的合理性の逸脱について述べる。

2022年12月31日

読書状況 読み終わった [2022年12月31日]

初稿1974年。本書は疫病がいかに世界史に大きく影響し続けてきたのか、その可能性を提示するものであり、それを裏付ける証拠については、筆者自らが語るように十分ではない。

疫病による世界への影響が改めて確信された2022年現在においては、その主張の全てを受け入れてしまいそうになるが、『熱帯アフリカからの人類進出に大きな影響を果たした』『都市で保持されていた感染症が農村に輸出され、文化圏の確立に影響した』など、本書だけでは判断ができない論説も多く、特に『キリスト教も仏教も、感染症の影響で浸透した』という主張は、あまりにも力点を感染症に置きすぎているように思える。

そもそも1974年の本を正しく評価するには、当時の状況と最新の研究を知らずには判断できそうにない。下巻の題材はAD1200年以降であり、まだ古代よりは証拠が残っていそうなものだが、注意深く読み進めたい。

2022年12月31日

読書状況 読み終わった [2022年12月31日]

日本に生まれたならば、道を歩いているだけで全財産を奪われたり、家に食べ物がないからと言って飢える心配をする機会はほぼないだろう。
それは、事故や病死による急死のリスクが0%ではないことを、誰もが理解しつつも気にしていないこととは少し違う。良くも悪くも、社会を信じているということだ。

食べ物を持っていなければ、あるところから奪うのが動物であり、実際に初期の人間はそうだった。
しかし、現代においては、殺してでも奪い取ることを良しとせず、それを律し、暴力が日常ではない社会を構築するに至った。
それは進化と同じく、奪い合う社会が滅び、協力しあう社会だけが生き延びた結果なのかもしれないが、
「時に殺し合うこともある」ということすら法の範囲として内包することで、人間社会は緩やかに信じ合い、協力を促し、分業を発達させ、加速度的な繁栄を続けている。
だが同時に、信じるということは知らなくて良いということでもある。

現代社会が「情報で溢れている」と表現されることがあるが、「知らないこと、知らなくても良いことで溢れている」とも言い換えられる。
隣人がどんな人か知らなくとも、出会い頭に強盗されることを恐れて武装したりしなくても良い。
物流の仕組みを理解していなくとも、餓死することを恐れて食料を溜め込まくても良い。
コンビニ店員が知らない人でも、偽物を売りつけられる心配をしなくても良い。
そのような信頼が、現代の巨大都市、国家、社会を成立させている。

新しい社会は新しい問題も山程生んだが、サルの社会と人間の社会のどちらが良いのかなんて、誰にも判断できることではない。人類は目指したところに進んで到達したわけではなく、偶然たどり着いたのみなのだから。
壮大な社会実験は、いつか全滅するその時まで続くだろう。

2022年5月28日

読書状況 読み終わった [2022年5月28日]

建国神話から1945年の独立宣言まで。
肝心のインドシナ、ヴェトナム戦争は別著に譲り、中国、フランスとの戦いに焦点をあてたヴェトナムの独立記。

構成は大きく分けて4つ。紀元前から1000年続く中国支配の時代、独立を維持し国家を造る時代、ラオス・カンボジア・チャンパ王国に攻め入る勢力拡大の時代、そしてフランス植民地時代。
政権と戦争の話がメインであるものの、当時の文化・風俗についても多く語られ、誠実で詳しくはあるのだが、時系列が行ったり来たり、時々の主役以外の人物像も希薄で、物語として受け取るのは難しい。

約400ページと新書にしては分厚いが、ヴェトナムの2000年間を一望できる一冊。

2022年5月28日

読書状況 読み終わった [2022年5月28日]

73年間で22人の皇帝が、しかもそのほとんどが謀殺により代替わりする三世紀の後編。

ローマ皇帝が敵国に捕らえられるという前代未聞の国難により、ローマ帝国は覇権を失い、ガリア帝国とパルミラ王国がローマから分離する。
いよいよ帝国も崩壊かと思われたが、生え抜きの軍人皇帝アウレリアヌスにより、なんとか失地回復に成功する。
だが、そんな皇帝でさえ謀殺により5年で失われてしまうのが、このときのローマだった。
5ヶ月の皇帝空位の後、75才のタキトゥスが8ヶ月で老衰、6年戦地を転々としたプロブスは謀殺、メソポタミアを回復したカルスは1年で事故死、ヌメリアヌス1年で謀殺、カリヌス2年で謀殺。
もはや何故これで政体として維持し続けていられるのか疑問だが、次の皇帝でようやく21年間の継続に成功する。
しかし、終わらない外敵の侵入により生活を脅かされた人々は、もはや国ではなく宗教に救いを求めるようになっていた。
外敵にはどうにか対抗できていたローマが、内なる敵にどう立ち向かうのか。
キリスト教との21年が始まる。

2022年5月28日

読書状況 読み終わった [2022年5月28日]

将来、AIが個人の最適な職業を提案することが可能になったとして、それはどの段階で可能となるだろうか?
成人してから?赤ん坊の頃?それとも受精卵すら発生する前の両親の遺伝子を判定して?
原題は「Nature Via Nurture:Genes,Experience and What Makes Us Human」であり、若干の意訳がすぎるところがあるが、いつの時代でも両親の心配事となる「生まれか育ちか」論争に答えを出す一冊だ。

今の時代、親でなくとも子育てには環境と遺伝子の両方が影響していることに疑いを持つ人は少ないだろう。
特別な英才教育の環境を用意されたとしても、真剣に取り組む子もいれば、遊び回って手がつけられない子もいる。それは兄弟姉妹であったとしても同じことだ。
この性格の違いは、生まれによるどうしようもないものなのか、これからの環境次第で変えられるものなのか。
本書は「生まれと育ちの両方とも重要」ということを改めて語るものではなく、「遺伝子は環境を通して発現する」ことを説明する。

例えば、鳥類の刷り込み。
「最初に見たものについていく」という遺伝子なしには有り得ないし、それが親鳥であるかどうかは環境次第。
ヘビを知らないサルの子供に、ヘビを怖がる母猿の映像を見せると、ヘビを怖がるようになるが、花を怖がる母猿の映像を見せても、花を怖がるように教育することはできない。

もちろん、本書で取り上げられるのは動物の事例だけではない。
不幸にも幼少期に言語を学ぶ機会を奪われた子供は、成長後の如何なる教育によっても喋れるようにはならない。
被虐待児は、あるタイプの遺伝子をもっている場合のみ反社会的な行動を示すように育つ。
子供が犯罪を犯す確率は、実父母と養父母の両方が犯罪者であるときに一層高まる。
養父母が離婚したときよりも、実父母が離婚したほうが子の離婚の確率は高まる。

つまるところ、遺伝子とは、環境から情報を引き出す書庫であり、レシピであり、スイッチである。
意志や教育や文化の力を総動員したとしても、遺伝子情報を変えることはできないが、その特性は適した環境がなければ発現しない。

さらに付け加えるならば、遺伝子と環境の条件が揃ったとしても、最終的には"確率"の問題となる。
遺伝子と確率がどうにもできないものならば、適した環境を探し続けるしか、出来ることはないだろう。

2021年12月31日

読書状況 読み終わった [2021年12月31日]

1人を犠牲に捧げないと世界秩序が崩壊するとしたら、一体どれだけの人が賛成票を投じるだろうか。
その犠牲が100人なら?10万人なら?10億人なら?

「最貧国援助のための仕事をしている」と言ったら、大抵の人がイメージするのは清廉潔白で公明正大な誰にでも優しい人物像だろう。
だが、誰かに手を差し伸べるということは、誰かを後回しにするということであり、効率的に助けようとするほどに、その選別の眼差しは厳しくなる。

例えば資金援助。単なる援助金の支援だけでは、その資金を狙ったクーデターが発生する確率が上がり、さらにはその防御のための軍事費も必要となる。
例えば資源開発やフェアトレード支援。単一的な一次産品の開発支援は、他の産業開発の芽を潰し、資源を背景にした独裁権力の温床となる。
例えば内陸国支援。輸出入の出入り口を不安定な国家に防がれた状態ではどのような成長も望めず、延命処置しかできない。

本書では、これらの前提条件として「なにより紛争を防ぐ必要があり、そのためには長期的な外国軍の駐留が必要だ」という、援助に積極的な優しい平和主義者であるほど、厳しい現実が突きつけられる。

2021年現在、世界は多くの犠牲の上に成り立っており、100年先でさえ、犠牲なしに世界は成り立たないことが約束されている。
いつか、軍事力なしに平和を、暴力なしに治安を考えることができる日は来るのだろうか。

2021年12月31日

読書状況 読み終わった [2021年12月31日]

酸素を運ぶ赤血球、侵入者を攻撃する白血球、傷を塞ぐ血小板。
ほとんどの人が、血液については他の臓器と違いその構成物まで知っている。
だからこそ、本書を読めば、血液について何も知らなかったということを知れるだろう。

赤血球はどうやって酸素を受け取り、どこで手放すことを決めるのか。
白血球はどうやって血中を移動するのか。
血小板はどうやって傷口に集まるのか。

単純な疑問に真正面から回答してくれるが、決して簡単というわけではなく。
例えば「血液が固まる場合と固まらない場合」のメカニズムは
内因性凝固系、外因性凝固系、12種類の因子、抗凝固の4段階のシステムを用いて解説されるし、
”二酸化炭素の運搬”という単純な役割に関しても、『血漿の水分に炭酸(H2CO3)として溶け込み、すぐに重炭酸イオン(HCO3-)と水素イオン(H+)とが解離して、イオンの平衡状態に達し、この平衡状態で肺へ運ばれている。』と説明される。

これだけの複雑性が明らかにされているからこそ、好塩基球の詳細やマクロファージの成熟過程など、わからないことがまだまだあるという事実が際立つ。
血液について、全く知らない人はその奥深さを、よく知っている人はその詳細を知れる、人体理解の入り口となる一冊。

2021年12月31日

読書状況 読み終わった [2021年12月31日]

ヘラジカの角、マンモスの牙、カブトムシの角、シオマネキのハサミ。
その身体に不釣り合いなほどに大きな武器は、なぜ、どのようにして進化したのか。
本書で提示されるその条件は3つ。
・オス同士での性闘争
・限られた資源を効率よく守れるような生態学的状況
・1対1での戦い
論として疑問を挟む余地があるわけではないのだが、筆者のフィールドワーク体験談や、人間社会との相似性比較であったりとエッセイ的で、学術論としてどこまで信じられるのかはわからない。
ただそのおかげで読みやすくはあるので、一つの仮説として話題にする分には楽しめる一冊。

2021年12月31日

読書状況 読み終わった [2021年12月31日]

「大学の物理」と言うが、内容は静力学、動力学、立体運動、振動と波動であり、高校生向けの力学プラスアルファの範囲。
内容としては、簡易でわかりやすいわけでも、精緻で難解なわけでもなく、どうにも中途半端。
さらに、副題で「おもしろい」というわりには、全体構成も問題設定も注釈も特に興味を惹かせるような工夫はなく。
なにより途中の先生と生徒の会話が全くおもしろくないところから、筆者が何を持って「おもしろさ」としているのか、その概念が気になってくる。

学ぶにしても、教えるにしても参考にしにくい、微妙な一冊。

2021年10月31日

読書状況 読み終わった [2021年10月31日]

73年間で22人の皇帝が、しかもそのほとんどが謀殺により代替わりする三世紀の中編。

中でも1年に5人の皇帝が入れ替わり立ち代わる238年。しかもそれは外敵との戦いによるものではなく、元老院との対立による内乱の結果であった。
その終結直後、外敵による侵入がなかったから内乱する余裕があったとでも言うかのように、ペルシアとの戦端が開かれ、その最中でもまた、味方の近衛軍団長官の手により皇帝が謀殺される。

新皇帝となった元近衛軍団長官フィリップスは、即時メソポタミアを放棄してペルシアとその場しのぎの講和を結び、元老院には媚びへつらい、政策は何もしないことで気配を消し、殺されない皇帝となることを望んだ。

しかし、ただローマ領に侵入しては暴れまわるだけの北のゲルマン蛮族にそれは通用せず。結局は、目の前に迫る危機に対してすら動こうとしない皇帝にしびれを切らした兵士に殺される。

次の皇帝デキウスに許された行動は、北方蛮族対策に血道を上げることしかない。
だが、ゲリラ部隊が山となって襲ってくるゲルマンに対策できるような体制は既になく、ついには帝国領内への大規模侵入を許すこととなる。
平原での会戦や、包囲攻城戦では負けずとも、騎兵で田畑を荒らし尽くす大量の蛮族を止める手立てはなく、ゲリラを深追いした皇帝自身が戦死する。

このような渦中での引き継ぎが上手くいくはずもなく。
皇帝トレボニアヌスは蛮族との講和を結ぶが、総督エミリアヌスはそれを無視して復讐に走る。
当然蛮族は反発し、再度の侵攻を開始する。
しかしてその勢いは地中海まで至り、300年の平和を維持していた内海からのローマ侵略が始まる。
混迷の最中、ローマ軍は3人目をかつぎだし、これに勝利したヴァレリアヌスが皇帝となった。

この最悪のタイミングで、後回しにしていたペルシア問題が再燃する。
今のローマに両正面を解決できるはずもなく、ローマ建国以来初めて皇帝が敵に捕らえられる。
息子で共同皇帝のガリエヌスは、何もできずに父親を見捨てることしかできなかった。

帝国はいつまで帝国であるのか。何が残っていれば帝国と言えるのか。
ここまでの人と領土を失ってもまだ帝国とされるローマは、これから何を失って帝国でなくなるのか。
次巻に続く。

2021年10月31日

読書状況 読み終わった [2021年10月31日]

『超入門』を謳うだけあって、家族信託制度を知らない人に紹介することに絞った本。

具体的な信託契約書の作成や手続きは「専門家へ相談して下さい」と投げられ、
運用するにあたり、信託法違反があった場合に何がどうなるかも全く不明。
例示は広くはあるが深くないため、読者の状況に適していないケースは読み飛ばすしかない。
詳細を詰めるには、書籍でなくパンフレットを探すべきだろうか。

一発目の導入としては悪い本ではないので、これをとっかかりにして次に行きたい。

2021年10月31日

読書状況 読み終わった [2021年10月31日]

月ノ美兎のエッセイ。
類まれなその雑談力、知識ではなくセンスが生む豊富な語彙力が欠片も損なうことなく文章化されており、
Vtuberとしての月ノ美兎を知っている、いや、
ファンであればあるほど必携の一冊であるのは間違いない。
だが、それ以外の人にとってはどうだろうか。

この文章力であれば、一般人に向けたって一角のものを書けたんじゃないだろうか、
そうでなくともVtuber界に対して新しい風を吹かせる何かを書けたんじゃないだろうか。
時代が生んだ全く新しい業界の中で、常に最先端を走り続ける月ノ美兎であるからこそ、
編集と出版社はそれを理解して新しい分野への挑戦を提供すべき機会ではなかっただろうか。

多種多様なVtuberを見ていると、現実世界ではなかなか苦労していたんだろうと思わされることは少なくない。
そういった人たちが活躍できる場が誕生したのは間違いなく喜ばしいことだが、
だからこそ、周囲はそれを活かし、手助けすることはあっても、消費し、使い潰すような真似はしてほしくない。
今後の彼ら、彼女らの健勝を心から願う。

2021年7月31日

読書状況 読み終わった [2021年7月31日]

ゼロトラストについて、基本要素を説明し、事例を紹介するムック本。
オライリー本のように定義の概念的理解から始まるわけではなく、
図を交えて具体的な用例用法で説明されるので、素人でも理解しやすい。
だが事例紹介は、理解のために必要な要素のみを残した理想構成で説明されるため、
わかりやすくはあるのだが、役に立てるには想像力による大幅な補完が必要。
後半まるっとサイバー攻撃とマルウェア詳細に紙面を譲っているが、
ゼロトラストと全く絡める気すらないのは編集の苦労がうかがい知れる。
2021年現在においては、関連担当者であるならば、一冊は持っておいてもよい本だろう。

2021年7月31日

読書状況 読み終わった [2021年7月31日]

2012年出版。問いかけの後にすぐに回答を明示してくれない書き口も合わさって、EUの前提知識ゼロで読むにはやや難解。

金融と通貨について少しずつ理解が進んできたつもりであったが、
改めてユーロについて問われると、何もわかっていなかったのだと気付かされる。
そもそも、国ごとの経済力の差を為替や金利で埋めていたとすれば、
経済状況が異なる国々が単一通貨で共通の金融政策をとるときに、どのような調整が必要となるのか。

例えばある国で財政危機となり通貨の信用が失われれば、そこからの資本流出は加速する。
特にユーロ圏内であれば、共通通貨特有の流動性により、安全性の差がわずかであっても高い箇所に一極集中することとなる。
ギリシャが危ういとなれば、次に危ういスペイン・イタリアをすっ飛ばしてドイツに集まるということだ。
そんな事態の回避のため、EU加盟国で参加国家の財政危機が訪れた時、常に他の国が手を差し伸べなければならないようでは、
ドイツの一人損になってしまうが、何もしないでは、資本と一緒に膨大な移民が押し寄せる事態となる。
では、財政危機となった当事国の取りうる手段はなんだろうか。

本書では、不況のさなかに増税を行ったフーバーと、減税を行ったケネディの両者とも間違いではなかったとする。
ケネディの政策は、減税による需要と供給の活性化により雇用改善を行い、その結果としての市場活性化による税収増加で財政再建を狙うということであり、
フーバーの政策は、金本位制の中でドルの信用を維持するため、まず増税による財政の健全化を行うことで資本逃避を防ぎ、その結果としての安定した市場にて雇用改善を狙う。

これと現在のユーロの状況を見比べると、ギリシャもスペインも不況時に緊縮的な財政政策を採用したが、
これは国家として市場の信頼を回復するためであり、財政均衡を目指さなければさらなる資本逃避に見舞われるためであるとわかる。

ここまでが本書の半分程度であり、結局のところ、そもそもユーロはどのような設計であったのか、
2021年現在、観光業が大きな収入源であったギリシャがコロナ禍でも何故破綻しないでいられるのか、
本書のみから推察することは不可能だ。
事例と理論の両輪を学ぶことで学習効率が上がるとすれば、
本書での勉強も遠回りでなかったはずだと信じ、ユーロ設立当初の理論から学び直すこととしたい。

2021年7月31日

読書状況 読み終わった [2021年7月31日]

科学の深堀りはなく、ただ死に方を集めただけの四方山話。
その上、集めた逸話にしても、例えばタイタニック沈没での低体温症の話をしておきながら、
それを生き延びて夜通し泳いだ人物について一切の言及もないことから、たいしたものではないことが伺い知れる。
暇つぶしの新書としてならばまだ使いみちもあっただろうが、中途半端な単行本サイズでは持ち運びにも窮する。
中学生をなんとか科学に興味を持たせるための一冊としてならば、あるいは。

2021年7月31日

読書状況 読み終わった [2021年7月31日]

「風邪をひいたら、たくさん汗をかいた方が良い」なんて民間療法を未だに信じているのならば、気をつけた方が良い。
本書は巷に蔓延る数々のニセ医学に対して、ひとつひとつ丁寧にその欺瞞を指摘するもの。

語り口はわかりやすく、丁寧で誠実であるだけに、本書のような正論を受け止められる人間は限られるだろう。
ニセ医学側は人間の脆弱性を的確に突き、論理ではなく信仰によってその影響を拡大しており、もはや論理的に正しい説得では通用しない。
彼らにこの本を突きつけたとしても、「その著者一人の言うことだから」「その頃とは違う治療法だから」「もっと売れてる本ではちゃんと説明されている」「良くなった人は全員間違っていたと言うのか」などなど、反論されてしまう余地はいくらでもある。

では、騙されないために何ができるのか、騙された人をどう説得すれば良いのか。
"信仰"には別の"信仰"で抗うしかないが、その"改宗"は難しく、
であればニセ科学に捕まる前に、科学リテラシーの教育とセーフティネットの整備を地道に続けるしかない。

昔の自分は、科学と論理のみを信奉していたが、今になって、占いや精神論など根拠のない思想も許容できるようになった。
正論や確率では答えが出ない時や、悲しみや辛さから抜け出せない人には、例え嘘でも「絶対に大丈夫」と後押ししてくれる他者が必要になる。
しかし、用法用量が適切でなければ、メリットよりもデメリットの方が大きくなる。

健やかな生活の維持のためには、病気や怪我の予防だけでなく、間違った信仰を防ぐ予防が必要となる。
本書はそのための一助となるだろう。

2021年5月31日

読書状況 読み終わった [2021年5月31日]

"事典"とはタイトルがまとまりきらなかったときに使われる文言なのだろうか。
クイズ形式でトレーニングの色々を書き連ねた本。

トレーンングと筋肉の関係、筋肉に効かせるトレーニング、目的別の推奨トレーニングなど、
どうにも主題がはっきりとしないが、ジムで話題に出来るような小ネタは多い。

「なんか筋トレの本読みたい」と目的を持たずに読むならば楽しめないことはないだろう。

2021年5月31日

読書状況 読み終わった [2021年5月31日]
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