ローマ人の物語 (3) ― ハンニバル戦記(上) (新潮文庫)

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  • 新潮社 (2002年7月1日発売)
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前半は、スキピオの祖父やハンニバルの父親たちが紀元前264年から前241年にかけてシチリア島を奪い合う第一次ポエニ戦争の戦記。後世から見ればハンニバルらが活躍する第二次ポエニ戦争の前史であるが、当事者たちは、戦争が始まる時も終わる時も、まさかこんな因縁の対決となるとは誰も思っていなかっただろう。海軍を持つどころか、海での戦いなどついぞ経験したことがなかった陸のローマと、既に西地中海を手中に治めていた経済大国カルタゴ。数字だけ見ると有利であったカルタゴを、戦続きで洗練された戦術を持ったローマが幾多の海難事故に見まわれつつも撃破していく戦歴はまさに痛快。そしてついにはローマの勝利で一旦は両者とも矛を収めるが、それでおしまいとならないのが人の戦争の歴史というものか。

恨みつらみを背負ったまま、スペイン征服により力を蓄えるハンニバル一族。西に続き、東のアドリア海と北のケルト人領土で戦火を広げるローマ。いよいよ本番ともいえるハンニバル戦記本戦は、次巻に持ち越し。後半で語られるのは、さらに発展が進むローマのシステム。

シチリア・コルシカ・サルデーニャと支配領域が増えたことによって拡張される連合方式と、街道のインフラ整備。選挙と抽選でバランシングした軍団編成のシステム化。そして編成方法はもちろん、同盟軍の編入単位から戦列の組み方、軍規や賞罰、宿営地建設方法にまで至る、徹底されたマニュアル化。軍のトップから一兵卒に至るまで、一年単位で離散集合を繰り返すことから必要とされた共和国ならではのこのシステム化・マニュアル化こそ、人類が獲得すべくして獲得した現代にまで続く”システム"という考えの発端なのではないかとさえ思わさせられる。
しかし、そんな大企業のような内部の変化には強いシステム化・マニュアル化が、ベンチャーのようなマニュアルを必要としない熟練達と、それを率いる天才に如何に苦しめられ、またそれを克服するのか。因縁の対決は次巻に続く。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2014年6月21日
読了日 : 2014年6月21日
本棚登録日 : 2014年6月21日

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