ローマ人の物語〈10〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(下) (新潮文庫)

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  • 新潮社 (2004年8月30日発売)
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『賽は投げられた。』ローマを追われ他国に亡命するとき、多数の部族が待ち受けるガリアに向かうとき、史上初めてドーヴァー海峡を渡るとき、ガリアでの初めての撤退戦のとき、激戦のアレシア攻防戦を乗り越えたとき。いずれも命をかけた重大な出来事であったが、歴史に残る一言は記録されていない。その後現代においても『ルビコン川を超える』が慣用句として使われるほどの一大事が、首都ローマへの進軍だった。

カエサルの軍事の才能が遺憾なく発揮されたのがガリア戦記であったが、個々の戦術はもちろん、その戦略眼こそが特筆すべき能力だろう。寛容と殺戮。冬営地の選択。ブリタニア、ゲルマンからの撤退。戦地への急行と十分な休息。糧食確保のための同盟。占領後の税制の改革。全ての選択肢の先が見えていたのではないかと疑うほどの結果を残している。
そしてその戦略眼は、政治の文脈においても遺憾なく発揮される。元老院への対抗のための三頭政治の樹立。自派の護民官の擁立。関係強化のための借金と人気のための公共事業。しかし、突出した才能は古い共和制とは馴染まない。
三頭政治は絶妙にバランスを保っていただけに、その一角クラッススのオリエントでの戦死により情勢は大きく歪み、ついには元老院との直接対決を余儀なくされる。数を武器にした今までの敵とは違い、今度の相手は稀代の軍人ポンペイウスとカエサルの戦術を知り尽くした元副将ラビエヌスだ。ローマが産んだ天才が、ローマを相手にその才能を測られるときがきた。次巻に続く。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2015年9月20日
読了日 : 2015年9月20日
本棚登録日 : 2015年9月20日

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