ローマ人の物語 (30) 終わりの始まり(中) (新潮文庫)

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  • 新潮社 (2007年8月28日発売)
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すべての崩壊はわずかな綻びから始まるが、わずかな綻びのすべてが崩壊をもたらすわけではない。
綻びが重なり連なったとき、即ち皇帝の引き継ぎ失敗の連鎖こそがローマ崩壊の原因だとすれば、これはその始まりだろう。

100年の平和の後の外的襲来に、戦争に不慣れな皇帝があたったとしても挽回可能であった。
しかし、先帝が有能であればあるほど、その跡継ぎに対する忠誠は盲従となる。
今までは、幸か不幸か皇帝は実子に恵まれず、有能な後継者を養子にすることで体制を保ってきたが、
今回に限ってはそうでなく、能力でなく血筋で選ばれ、しかもそれは失敗した。

コモドゥスは暴君に生まれついたわけではないが、不運な家庭環境がそうしてしまった。
人間は、欲しい物が与えられなくとも自暴自棄にはなれないが、持っていたものを奪われるときはそうではない。
"怒り"よりも"恐れ"こそが、多くのものを破壊する暴力の源泉となる。
まずこの病にかかったのは、皇后の地位を奪われんとした姉であり、その姉による暗殺計画により、コモドゥスは猜疑心の塊となってしまった。

家族だけでなく、有能な部下や元老院議員までもが次々と処刑され、残るのは実利のみを求める追従者のみ。
能力がない追従者は権力を持っても金と権限をばらまくことしかできず、腐敗は加速する一方となる。
皇帝権力のチェック機関であったはずの元老院は、明確な"敵"や反対意見、思想の違いにはこれまで対抗できてきたが、
敵でも味方でもない、何の思想も持たない皇帝の側近が独断で行っていた買収により形骸化されてしまっていた。

確たる原因も明らかにされないままなんとなく皇帝は暗殺され、残されたものは混乱以外何もなかった。
ローマが過去の危機を何度も乗り越えられたのは"中興の祖"たる実力者があってのことであったが、
今のローマにそれを可能とする体制は残されていただろうか。次巻に続く。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2019年12月25日
読了日 : 2019年12月25日
本棚登録日 : 2019年12月25日

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