繁栄と衰退と: オランダ史に日本が見える (文春文庫 お 7-2)

著者 :
  • 文藝春秋 (1999年1月1日発売)
3.55
  • (3)
  • (6)
  • (13)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 94
感想 : 5
4

蘭学、東インド会社、チューリップ、大麻。現代のオランダのイメージからはそうは思えないが、かつて世界随一の経済大国であったオランダは、いかにして衰退することとなったのか。15世紀〜17世紀のオランダの興亡について。

そもそも『低地帯の国々』を意味する『ネーデルラント』という国名自体が、この国をよく表している。生産に適した土地ではなかったことから、西欧が大航海時代に入るまで、歴史の表舞台に登場することはなかったが、その経済的な存在感が増していくにつれ、一国の衰退が他国の利益と考えられていた時代、危険度は増していく。

さらに、『国々』とある通り、オランダは統一国家というよりは諸都市連合であり、君主を抱かず早すぎる民主制を獲得してしまった。民主制というのはとかく時間的、人的、金銭的に多大なコストを必要とする体制であり、平穏時ならともかく、まだ君主の一存で軍隊が動いた当時の欧州においては、そのまとまりのなさは致命的な弱点となった。

かくして宗教戦争をかろうじて生き延びるもその後の経済戦争にて滅びかけたオランダであったが、絶体絶命の中、間一髪で城門を閉じた女性の奇跡、神風、そしてイギリスの名誉革命に救われて、国としての存続を許されたのだった。

本書はそんなオランダの趨勢を、冷戦終結間際バブル絶頂期で安保問題に揺れる日本との対比で語られるが、バブル崩壊後の今からして見れば、ほんの十数年前のことであるのに、隔世の感すらある。
愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶとは言うが、ただ個々の似た事象を収集して並べて「あの時と一緒だ!」と叫ぶことに全く意味がないことは、左右の罵り合いでしかない言説を見れば明らかだ。
賢者を志すならば、まずは歴史からどのように学びを得られるのか、を考えなくてはならないだろう。もちろん、愚者として歴史を楽しむに留めておくという生き方も悪く無い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年1月17日
読了日 : 2016年1月17日
本棚登録日 : 2016年1月17日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする