柔道史上最強として知られる木村政彦を中心に、柔道史を大河小説的に描いたノンフィクション。
上下巻のボリュームに圧倒されるが、余談の多い歴史作家のような文章は、講談本のようにぐいぐい読者を引き込んでしまい、あっという間に読み進んでしまう。
タイトルを見た読者のほとんどは、力道山がプロレスの試合で裏切り、ヤクザに殺害された事件が話の中心と思うところだけど、上巻の時点ではその話はほとんど出てこない。
上巻のポイントは、平面的にしか知られていなかった柔道成立過程、つまり明治以降、古流柔術がスポーツ競技化されることで講道館柔道なっていった、というような単純なものでは無かったということ。古流柔術は昭和になってもまだ十分勢いがあり、競技団体としては講道館の他に、大日本武徳会と高専柔道があり、それぞれルールや元にした流派の違いから、まったく違う世界を持っていたこと。また、現在ではほぼ忘れられてしまった牛島辰熊や安倍謙四郎といった天才的柔道家について詳しく調べられていることなど。
修行者、武道家が刺激を受け、モチベーションを上げたい場合、これ以上の本はなかなかないと思う。何100年も前の歴史の中の達人たちの話ではなく、ほんとについ先日まで生きていた武道家たちが、今では考えられないほどの肉体と精神力を持ち、超人的な練習を行い、破天荒というより無茶苦茶なこと平気でやってたことを知ると、俗に言われている自嘲的な日本人論が非常に薄っぺらく思えてしまう。
読書状況:未設定
公開設定:公開
カテゴリ:
┗武術(日本)
- 感想投稿日 : 2017年5月11日
- 本棚登録日 : 2016年11月4日
みんなの感想をみる