ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く

  • NHK出版 (2007年6月26日発売)
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感想 : 75
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いわゆる、超弦理論・膜理論に関する本です。

アインシュタインが夢見ていた(そして、実際に彼の後半生を費やした)究極の物理理論の最有力候補が、この膜理論です。

私が大学で研究していた頃は、超弦理論の第二次ブームの時で、論文を読み漁っていたのを懐かしく思い出しました。
その後、10次元で成立する超弦理論(全ては弦の振動するモードから成り立っている、という理論です)から進化して、この10次元の弦は11次元の膜の一部である、という上位理論の膜理論(M理論)に発展しました。

著者はこの膜理論の第一人者の一人で、本書では、アインシュタインから膜理論までの歴史と、本人の主張する余剰次元宇宙について書かれています。
特に前半の膜理論までの解説がすばらしい!
かなり詳しく・丁寧に解説されています。

後半は彼女の主張が展開されます。
膜理論では、宇宙は初期に10次元であったのが、対称性の破れによってビッグバンが起こり、その時に6次元はコンパクト化して(巻き上がって)カラビ-ヤウ多様体(空間)となり、残りの4次元で現在の我々が住んでいる4次元宇宙となった、となっています。

彼女の主張は、
超弦理論では、このカラビ-ヤウ空間は非常に小さく巻き上げられているが、M理論では、我々の宇宙は、もっと大きな宇宙に浮かんでいる膜と見なせる。
その結果、全ての高次元がコンパクトになる必要はなく、一部の次元は無限大にもなりえる。
そこで、これを利用して、重力が他の3つの力(電磁力、強い相互作用、弱い相互作用)に比べて桁違いに弱い理由が説明できる、
というものです。
第5の次元(本書では余剰次元と表現している)へグラビトン(重力の量子)が漂い出るのを防ぐ重力が3ブレーン(我々の宇宙)にあり、重力は3ブレーンから余剰次元へ出ると希薄になって弱まり、あまり遠くへ到達できない。言い換えると、重力は他の3つの力と同じレベルの強さだが、その一部が高次元空間へと漏れ出しているので、弱くなっている。

もし彼女が正しければ、この量子論的効果は測定可能なエネルギーレベルになり、現在建設中の加速器で検出できるかもしれません。
そうなると、間違いなくノーベル物理学賞モノでしょう。

最新の宇宙論+M理論では、マルチバース(我々の住む宇宙以外にも、無数の宇宙が存在する)が半ば常識化しつつありますが、それについての突っ込んだ議論は本書ではなされていません。

いずれにせよ、M理論(超弦理論)、宇宙論を俯瞰するには最適な本と考えます。


アインシュタインが夢見ていた統一理論という方向性は正しく(ただし時期が早すぎた)、また、アインシュタインも5次元空間での理論を構築したり、原子などの元の素粒子がブラックホールだったらとの前提で理論を立てたり(現在でも、この方向での研究は行われている)、多くの宇宙論がアインシュタイン方程式を解くことで発展してきたりなど、改めてアインシュタインの偉大さを再認識したりもしました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 物理・数学
感想投稿日 : 2013年5月31日
読了日 : -
本棚登録日 : 2013年5月31日

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