瀬戸内寂聴の源氏物語 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2005年7月15日発売)
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感想 : 29
4

源氏物語全54帖のうち、『桐壷』から「宇治十帖」『浮舟』までの27帖を収録したダイジェスト版。

源氏物語は長大な作品なので、解説書を除き、1冊にまとまった現代語訳はなかなかない。全体の流れを知りたいと思っていた私には、打ってつけの本だった。
平易な言葉が使用され、説明が必要な部分は補記されているので、初心者に親切で、ストーリーを追うのにもってこいだと思う。

読み始めてまず気になったのは、ひらがなの多用。例えばp.29「なにもかもがこのうえなくととのいすぎていて」のように、仮名の羅列が続く。仮名文学である原文の雰囲気には忠実なのかもしれないが、単純に読みにくかった。
また、「葵」の章、紫の上が結婚初夜での光源氏の豹変ぶりを嘆くシーンで、唐突に一人称になるのは違和感があった。ところどころ、女君たちに感情移入した著者の台詞のように聞こえたのは気のせいだろうか。

酒井順子氏の解説では、光源氏が主役というのは表向きで、彼は女を描くための狂言回しでもあると示唆しているが、私も同じ感想を持った。

ダイジェスト版を読んで言うのはおこがましいが、光源氏の人物造形に深みがないのだ。乱暴だが、「社会的地位が高く、光り輝くように美しい、恋愛依存症の男性」と言えば説明できる。
彼が養女ですら臆面もなく恋愛対象にするのには呆れるし、「若菜(下)」で、紫の上に向って「あなたは大きな悩みも悲しみもなく幸福だ」と言い切るに至っては噴飯ものだ。そのような浅はかさを持ちながら、姿形の美しさによって、すべてが正当化されている面がある。
男性陣の方は、光源氏も頭中将も夕霧も柏木も、性格に大差なく思われた(唯一、朧月夜に献身的な愛を注ぐ朱雀帝は際立って見えた)。

その一方、女性陣の内面描写は細やかで、誰一人として似通った者はいない。皆それぞれに美しく、共感をもって、鮮やかにその姿を思い浮かべることができる。「野分」で、紫の上を春の朝の樺桜に、玉蔓を夕映えの八重山吹きに例える描写がいい。
個人的には、無邪気で気どらない夕顔が最も好きだ。彼女と共に生きられたら、もしかしたら光源氏は満たされていたのでは…。

作品の主眼は、男に翻弄されて生きるしかない女の悲しさではないだろうか。男性の浅はかさとは対照的に、女性の豊かな内面が活き活きと描写されている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学(一般)
感想投稿日 : 2016年11月3日
読了日 : 2016年11月3日
本棚登録日 : 2016年11月2日

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